北山猛邦『少年検閲官』

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9月 222007
 

少年検閲官 (ミステリ・フロンティア)

  • 著者/訳者:北山 猛邦
  • 出版社:東京創元社( 2007-01-30 )
  • 単行本(ソフトカバー):320 ページ
  • Amazonで詳細を見る

「君はミステリに何を期待しているんだ?」

全ての書物が灰にされた世界。旅を続ける英国人少年のクリスは、日本の小さな町で奇怪な事件に遭遇する。町の家々に残された謎の赤い十字架。森の湖で見つかる首無し死体。この町では森に入ると化物に首を切られると恐れられていた。その存在の名は、「探偵」。

書物が燃やされてしばらく経った世界なので、もちろん推理小説も存在しない。すなわち、いかにもミステリ的な事件が起きたとしても、町の人は「ミステリ」って何なのか知らないので処理しきれない。結果として、首無し死体が見ると「自然現象」として処理されてしまうのだ。父から口伝えで「ミステリ」を知っているクリスはこの壁に苦悩する。

他にも「探偵」の存在や、宝石にされたミステリのガジェット、ガジェットを取り締まる少年検閲官の存在など、数々の設定があらわれる。幻想的であり、何かの暗喩にも見えてくる。ミステリの形をしたミステリの存在を巡る寓話という感じ。

豪腕物理トリックが相変わらずブンブンうなっているが、作者のミステリに対する姿勢というか心構えというか佇まいが透けて見えてくる。「君はミステリに何を期待しているんだ?」という問いの、作者自身の答えがこの一冊なのだろう。この一冊を踏まえて次にどうでるのか、目が離せない。

10月 112006
 

ぶぶ漬け伝説の謎 裏京都ミステリー

  • 著者/訳者:北森 鴻
  • 出版社:光文社( 2006-04-20 )
  • 単行本(ソフトカバー):229 ページ
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元広域窃盗犯の寺男・好奇心旺盛の女性記者・トラブルメーカーのバカミス作家が京都の大悲閣千光寺を舞台に、裏(マイナー)京都で事件に巻き込まれまくる『支那そば館の謎』の続編短編集。

どの作品も京都の文化や京都人の人となりをミステリに織り込んでいるのが特徴。例えば表題作は一度は聞いたことがある噂、「京都のお宅にお邪魔して、帰り際に『ぶぶ漬けでもどうです?』と言われたら断らないといけない(お言葉に甘えると『あの人は礼儀知らず』とボロクソ言われる)」という話が核。そんな仕打ち誰もしないらしい(!)のに何でそんな噂が出来たのか?という民俗学的な謎と、グルメな舌の持ち主なのに刺激性の強い毒物で殺害されたフリーライターの事件が見事に融合する手際はさすが。

浪費で吝嗇、いけずで歴史を重んずる。「京都」という都市を一つの閉鎖空間としてミステリに当てはめている本シリーズ。とはいえ気負うことはなく、登場人物たちの軽妙な会話のおかげもあってライトな仕上がり。小料理屋の料理がまたムダに美味しそうなのも見所です。

 

プラットホームに吠える (カッパ・ノベルス)

いつも作品に動物を絡ませる霞流一ですが、今回のテーマは「狛犬」と「鉄道」。そのココロについてはあとがきで作者が述べているので割愛しますが、うーん正直どちらも生かしきれてないような…。

「マンションからマネキンと共に墜落した女」「プラットホームで起きた通り魔事件の不可思議な動線」「密室状況で丸いギロチンで切断された男」という事件の裏に「狛犬」という縦糸が通っている構図。よく考えられてはいるものの、読み終わってもスッキリしない。ギロチン密室は見取り図もないのに延々と建物について論争してたりとか、被害者心理の解釈が予定調和っぽいとか、所々に雑味を感じてしまう。端役・脇役まで濃いキャラ付けをしてるせいか、証言一つ取るにもすごい喋られて大騒ぎなのも一因か。

神社で立ち聞きした「狛犬に関する奇妙な会話」から『九マイルは遠すぎる』のような推論を展開するところまでは面白いなぁとは思うのですが、全体的にどうにもこうにもゴテゴテした手触りのお話でした。うーん。

 

文章探偵 (ハヤカワ・ミステリワールド)

カルチャースクールで文章講座の講師をしている作家・左創作は、文章からそれを書いた人間をプロファイルする、人呼んで「文章探偵」。ある日、彼が審査を務める新人賞に応募された作品が、現実のバラバラ殺人事件によく似ていることを発見する。どうもその作品は彼が持つ講座の生徒が書いたものらしい。しかも、文章をちょっと変えただけで同じ内容の作品がもう一つ投稿されていた。誰が書いたんだ?そいつが犯人なのか?なんでもう一個あるんだ?持ち前の文章探偵術で作者を突き止めようとする左だったが…

まず「文章のプロファイル」という題材が面白い。ミスタッチからローマ字入力/かな入力を判断したり、誤変換で選択された漢字から作者の職業を推理したり、「見いだす」「見い出す」といった単語選びの癖を見たり、小学校時代にこの教科を習った者は昭和~年代といった時代考証に至るまで、作者像を割り出すバリエーションが多くて楽しい。手がかりの文章も講座の課題や応募原稿、メールや手紙までいろいろ。よく考えてるなぁ。

とはいえ、主人公は普通のミステリ作家。いわゆる「探偵」然としたキャラではない。そして独り身で調査してるので、結果として部屋で文章を見ながら悶々とする感じになってしまい、ビジュアル的にちょっと地味である。よく練られたプロットで意外な結末も決まるんだけど、「独りで悶々」としてるため、推理や解明の道筋がどうもクドく感じてしまうだった。作者初のミステリ長編ということもあり、事態の説明がちゃんと伝わるか不安があったのかもなぁ。

風通しが良くなりさえすれば、全編随所に出てくる文章探偵術と、混乱を極める殺人予告小説の謎の両方が楽しめるオイシい作品になっていると思う。2作目3作目にも期待したい。

 

博士の異常な健康―文庫増毛版 (幻冬舎文庫)

健康マニアのルポライター芸人・水道橋博士が、自らの肉体を実験台に、様々な健康法に挑んだ様子を綴る健康本。まず帯からして「髪の毛が生えてきた!」という強烈な煽りであり、作者曰くこの帯のおかげでamazonでトップセラーもなったとのこと。

健康本とは言え、あるある大辞典のようなすぐに試せるエクササイズとかは全然なく、「異常な健康」を追求した本のためかなりマニアックな内容。第1 章のハゲ治療から始まり、近視矯正手術・ファスティング(断食)・アサイージュース、果ては胎盤エキス・バイオラバー・加圧トレーニングといった全然馴染みのない、なんだか怪しい印象のものまで体当たり。その全てにおいて自身で効果を確かめ、医者や製造元にまで仕組みを聞きに行き、それをいつもの軽快かつ熱い筆致で伝える水道橋博士の芸人魂・ルポ魂たるや圧巻である。

元はサプリメントで薬漬けだった作者が、健康を偏執に追い求めて辿り着いた幾つかの体験は、普通に眺めるとなにやら眉唾なものが多いのだが(バイオラバーなんて「体にいい電磁波が出て人体と共振する」とか言われる)、新聞の全国紙でガン治療に効果ありと発表されたり、東大の学者が論文を世界に発表してたり、と”裏づけ”が取れてるものばかり。それでもやっぱり騙されてるように感じるのだけど、じゃぁ医者からもらった薬がどうして病気に効くのか分かっているのかと問われると結局わからない。この執拗な健康の追求は、なんでも聞いてきちんと納得し、なんでも試して体で感じることが重要なのだ、というメッセージなのかもしれない。

数々の強烈なインパクトを読者に与える本書であるが、僕的に一番のインパクトはハゲ治療の回に出てきた、「プロピアのヘアコンタクトを着用した江頭2:50の写真」であった。頭フサフサで「もの申ーす!」のポーズですよ!

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