か行の作家 Archive
北山猛邦『少年検閲官』
「君はミステリに何を期待しているんだ?」
全ての書物が灰にされた世界。旅を続ける英国人少年のクリスは、日本の小さな町で奇怪な事件に遭遇する。町の家々に残された謎の赤い十字架。森の湖で見つかる首無し死体。この町では森に入ると化物に首を切られると恐れられていた。その存在の名は、「探偵」。
書物が燃やされてしばらく経った世界なので、もちろん推理小説も存在しない。すなわち、いかにもミステリ的な事件が起きたとしても、町の人は「ミステリ」って何なのか知らないので処理しきれない。結果として、首無し死体が見ると「自然現象」として処理されてしまうのだ。父から口伝えで「ミステリ」を知っているクリスはこの壁に苦悩する。
他にも「探偵」の存在や、宝石にされたミステリのガジェット、ガジェットを取り締まる少年検閲官の存在など、数々の設定があらわれる。幻想的であり、何かの暗喩にも見えてくる。ミステリの形をしたミステリの存在を巡る寓話という感じ。
豪腕物理トリックが相変わらずブンブンうなっているが、作者のミステリに対する姿勢というか心構えというか佇まいが透けて見えてくる。「君はミステリに何を期待しているんだ?」という問いの、作者自身の答えがこの一冊なのだろう。この一冊を踏まえて次にどうでるのか、目が離せない。
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北森鴻『ぶぶ漬け伝説の謎 裏京都ミステリー』
元広域窃盗犯の寺男・好奇心旺盛の女性記者・トラブルメーカーのバカミス作家が京都の大悲閣千光寺を舞台に、裏(マイナー)京都で事件に巻き込まれまくる『支那そば館の謎』の続編短編集。
どの作品も京都の文化や京都人の人となりをミステリに織り込んでいるのが特徴。例えば表題作は一度は聞いたことがある噂、「京都のお宅にお邪魔して、帰り際に『ぶぶ漬けでもどうです?』と言われたら断らないといけない(お言葉に甘えると『あの人は礼儀知らず』とボロクソ言われる)」という話が核。そんな仕打ち誰もしないらしい(!)のに何でそんな噂が出来たのか?という民俗学的な謎と、グルメな舌の持ち主なのに刺激性の強い毒物で殺害されたフリーライターの事件が見事に融合する手際はさすが。
浪費で吝嗇、いけずで歴史を重んずる。「京都」という都市を一つの閉鎖空間としてミステリに当てはめている本シリーズ。とはいえ気負うことはなく、登場人物たちの軽妙な会話のおかげもあってライトな仕上がり。小料理屋の料理がまたムダに美味しそうなのも見所です。
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霞流一『プラットホームに吠える』
いつも作品に動物を絡ませる霞流一ですが、今回のテーマは「狛犬」と「鉄道」。そのココロについてはあとがきで作者が述べているので割愛しますが、うーん正直どちらも生かしきれてないような…。
「マンションからマネキンと共に墜落した女」「プラットホームで起きた通り魔事件の不可思議な動線」「密室状況で丸いギロチンで切断された男」という事件の裏に「狛犬」という縦糸が通っている構図。よく考えられてはいるものの、読み終わってもスッキリしない。ギロチン密室は見取り図もないのに延々と建物について論争してたりとか、被害者心理の解釈が予定調和っぽいとか、所々に雑味を感じてしまう。端役・脇役まで濃いキャラ付けをしてるせいか、証言一つ取るにもすごい喋られて大騒ぎなのも一因か。
神社で立ち聞きした「狛犬に関する奇妙な会話」から『九マイルは遠すぎる』のような推論を展開するところまでは面白いなぁとは思うのですが、全体的にどうにもこうにもゴテゴテした手触りのお話でした。うーん。
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草上仁『文章探偵』
カルチャースクールで文章講座の講師をしている作家・左創作は、文章からそれを書いた人間をプロファイルする、人呼んで「文章探偵」。ある日、彼が審査を務める新人賞に応募された作品が、現実のバラバラ殺人事件によく似ていることを発見する。どうもその作品は彼が持つ講座の生徒が書いたものらしい。しかも、文章をちょっと変えただけで同じ内容の作品がもう一つ投稿されていた。誰が書いたんだ?そいつが犯人なのか?なんでもう一個あるんだ?持ち前の文章探偵術で作者を突き止めようとする左だったが…
まず「文章のプロファイル」という題材が面白い。ミスタッチからローマ字入力/かな入力を判断したり、誤変換で選択された漢字から作者の職業を推理したり、「見いだす」「見い出す」といった単語選びの癖を見たり、小学校時代にこの教科を習った者は昭和~年代といった時代考証に至るまで、作者像を割り出すバリエーションが多くて楽しい。手がかりの文章も講座の課題や応募原稿、メールや手紙までいろいろ。よく考えてるなぁ。
とはいえ、主人公は普通のミステリ作家。いわゆる「探偵」然としたキャラではない。そして独り身で調査してるので、結果として部屋で文章を見ながら悶々とする感じになってしまい、ビジュアル的にちょっと地味である。よく練られたプロットで意外な結末も決まるんだけど、「独りで悶々」としてるため、推理や解明の道筋がどうもクドく感じてしまうだった。作者初のミステリ長編ということもあり、事態の説明がちゃんと伝わるか不安があったのかもなぁ。
風通しが良くなりさえすれば、全編随所に出てくる文章探偵術と、混乱を極める殺人予告小説の謎の両方が楽しめるオイシい作品になっていると思う。2作目3作目にも期待したい。
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寄藤文平『死にカタログ』
JTの中吊り広告大人たばこ養成講座でおなじみのイラストレーター・寄藤文平が「死ってなんだろう」という疑問を絵で考えていく本。
哲学書から白書まで、死に関する膨大な資料を引用しながら、様々な「死」が独特の柔らかなタッチで描かれています。国や文化による死の受け止め方の違いを描いた「死のカタチ」、人はどこで死ぬものなのか「死の場所」、古今東西の人物が死ぬまでのストーリーを書いた「死のものがたり」など。細かな絵柄でポップに描かれたイラスト達が死を語るアンバランスさが、”死を考える”という重くとりがちなテーマを軽くしてくれる役割をしてくれます。
一人称でも二人称でもなく、死の実際を床に広げて、「こうなってるみたいだ。自分はどうなるのかな。」と結論を出さずに俯瞰する、きっかけ作りの中身になってます。真剣に対峙する、というより、ちょっとサンダル履いて覗いてくる、という気軽さがいい
絶対いつかくる自分の死がどんなカタチになるのか、死と向き合うための入門書になるんではないでしょうか。普通にイラストだけ見ても楽しいです。質量は軽いが中身は重い、大人の絵本ですな。
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