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か行の作家 Archive

せきしろ『去年ルノアールで』

今日も今日とて、「喫茶室ルノアール」で暇を潰す筆者。カフェほどお洒落でなく、喫茶店ほど小さくまとまってなく、混沌とした人種が集まるルノアール。客や店員を観察しているうちに始まる、妄想力いっぱいのエッセイ。こんな無気力妄想エッセイが、『relax』で4年も連載されていたということにまず驚かされる。

まずルノアールに来る人がおかしすぎてすごい。アニマル柄の奇抜なセーターの中年女性、「車をかじりません」と泣いて父親にわびる子供、洗面所で髪をあらって出てくる客、談笑の末にセカンドバックから500万円を取り出して受け渡す二人組み、ココアを頼み「ミルクを抜いてください」と店員に何度も注文をつけ(その度「かしまりました」と答える店員)あげく厨房にまで乗り込んでミルクを抜いてくれと頼んだのに一口も飲まずに帰る女性客などなど、とにかく変すぎる。

こんなおかしな場所設定を描き出した時点で、もう何を乗っけても面白くなること必死。ここで筆者は妄想力を駆使しておかしな客の背景を想像したりする。おかしな客の行動を「表」とするならば、妄想をもって「裏」を取るのだった。もはや毒をもって毒を制すという泥仕合。たまに全く関係なく、笑っていいともが終わった後のタモリはどうなるんだろう?誰もいないアルタでたそがれるのか?とか想像しだすけど、これもたまらん。

ルノアール、行ったことあるけど、こんな場所だっけ?と、実地で確認せずにはおれなくなってくる。無益で無気力な無茶エッセイ。映像化もされてる(→去年ルノアールで DVD-BOX~深煎り妄想セット~)のがものすごい気になる。

近藤史恵『タルト・タタンの夢』

だまって食べればピタりと解ける。

下町の小さなフレンチ・レストラン、ビストロ・パ・マル。風変わりなシェフのつくる料理は、気取らない、本当にフランス料理が好きな客の心と舌をつかむものばかり。そんな名シェフは実は名探偵でもありました。常連の西田さんはなぜ体調をくずしたのか? 甲子園をめざしていた高校野球部の不祥事の真相は? フランス人の恋人はなぜ最低のカスレをつくったのか?……絶品料理の数々と極上のミステリ7編をどうぞご堪能ください。

MYSCON9昼の部のゲストの一人、近藤史恵さんの現時点でのミステリ最新刊。

謎をすべて料理に絡ませていて、シェフが用意した料理を”食べれば解ける”状態にもっていってるのが面白い。北森鴻の「香菜里屋」シリーズを思わせるけども、こちらはフランス料理一本。この縛りをこなすには肩に力が入りそうなところ、さらっと後味軽く作り上げてるのも旨い。いや、巧い。

上品な作品集であり、分量も上品ゆえ、読了後もまだ食べ足りない感じが残るのですが、それはそれ、今後のシリーズ化でメニューが増えていくのも期待しております。

鳥飼否宇『官能的――四つの狂気』

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数学×生物学 = 変態+バカミス。興奮すればするほど頭が冴え渡る変態数学者と、その数学者の生態を観察する助手が引き起こす3つの事件+アルファ。

変態助教授・増田米尊のフィールドワーク中、ターゲットの女性が公園のトイレで惨殺される。「唯一の」目撃者・増田の話が事実とすれば、彼以外に犯人はいなくなるのだが…?(「夜歩くと…」)
4つの事件に、変態数学者が超絶思考で挑む。

主人公の増田は己の変態さ故に事件に巻き込まれまくりなのですが、この窮地を解決するために行われるのが「周りがよってたかって増田に罵詈雑言を浴びせる」という行為。興奮すると頭が良くなるのでこんなんなってしまうのだ。トミーとマツの「トミ子ー!」みたいなものである。ちがうか。

下ネタを中心としたくすぐりが多くニヤニヤしっぱなしですが、やれパンティだ覗きだストーキングだと書かれた文章に、ページ右上に堂々と「官能的」と大書きされており、とても電車の中で読めない感じで困ったもんですよニンニン。

それでもミステリ部分がしっかり作りこまれており、大小仕掛けあり捨て推理あり。しかしなにぶんベースが変態なので、その上に立つ楼閣たるや、なんとも奇妙な仕上がり。3つの短編を経て最後に待ち受ける「四つの狂気」でその奇妙さも最高潮に。あのあれがあぁだったんかい!とスッキリするやら脱力するやら。

いくつ書いてもますます冴え渡る鳥飼否宇のバカミススキル。今年も健在であります。

岸本佐知子『気になる部分』

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本業は翻訳家の人なんですが、これが笑気と寒気を併せ持つ妄想エッセイ。

屋根の上でまといを振るっている江戸っ子は火事にはしゃいでいるんじゃないか、用途がない「男性の乳首」が未だ存在しているのは自分のせいではないか、ロボコップには髭が生えるのか、満員電車で会うキテレツな人たちは自分にしか見えないのか…。

どうでもいいことでもいったん気になると止まらない。これが半ばマジメな口調で語られていくからたまらない。眠れぬ夜に一人でしりとりを始めるが、ルールの策定に明け暮れて終わったりする。可笑しくてしょうがない。

この「気になる」が爆発してるのが3章の「軽い妄想壁」で、ショートショートの形式で妄想が綴られているのだけど、これが飛びすぎていて逆に怖い。サーカスから追われたり口の中で蛙を飼っていたりである。もはやホラーに近く、これまで笑っていたのに段々と悪寒を覚えるほど。

最後の4章「翻訳家の生活と意見」で普通に戻り、翻訳家の苦労話などが語られていても、3章の衝撃が覚めやらず、この人はホントは翻訳家じゃなくて、そう思い込んでいるだけなんではないか、といらぬ心配をしてしまうぐらいでした。

くすくす笑っているうちに現実と虚実がぐちゃぐちゃになる本作。これが作者の初エッセイで、近刊の『ねにもつタイプ』はテレビでも話題になってました(表紙見て思い出した)。恐る恐る読んでみようと思います。

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近藤史恵『サクリファイス』

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サクリファイス【sacrifice】— いけにえ、犠牲。

自転車のロードレースがこの作品の舞台。この本を読むまで知らなかったんですが、実はかなり奥が深い競技なんですな。自転車ロードレースは団体競技であり、「エース」と「アシスト」という役割が存在するとのこと。

アシストはエースが勝つための駒として働くのが仕事。エースの先を走ることでエースにかかる空気抵抗を減らしたり、集団から飛び出して全体のペースを乱したり、エースの自転車がパンクした時は自分の自転車の車輪を提供したりする。駆け引きの中に身を投じ、目まぐるしく変わる状況の中で活路を見出すスポーツなのだった。

この物語の主人公は「アシスト」の白石誓。勝つことに意味が見出せず、アシストとしての役割に徹するつもりであった白石。しかし、その実力やレースでの経験から、自分のために走ることを意識し始める。気になるのはチーム内のエース・石尾。彼は自分以外のエースを認めないとの評判が立っていた。彼に潰された選手もいたと言う…。

物語の半分以上を過ぎ、青春小説としてぐいぐい引き込まれてる最中、「惨劇」の章で起こる事件が読者も登場人物も揺さぶっていく。そこから二転三転し、ラストへの急展開。全てが鳥肌。

サクリファイス。いけにえ、犠牲。その言葉が本作でなす意味は、あまりに重い。

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