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‘か行の作家’ カテゴリーのアーカイブ

情熱と執念 北森鴻『狂乱廿四孝』

2010 年 2 月 2 日 コメントはありません

明治三年。脱疽のため右足に続き左足を切断した名女形、沢村田之助の復帰舞台に江戸は沸いた。ところが、その公演中に主治医が惨殺され、さらには、狂画師・河鍋狂斎が描いた一枚の幽霊画が新たな殺人を引き起こす。戯作者河竹新七の弟子・峯は捜査に乗りだすが、事件の裏には歌舞伎界の根底をゆるがす呪われた秘密が隠されていた…。

北森鴻のデビュー作(第六回鮎川哲也賞)。芝居小屋を取り巻く連続殺人、一枚の幽霊画がその根底にあり…という筋だけど、時代物に馴染みがないのもあり、人物名を覚えるのにちょっと苦労してしまいました…。登場人物自体も多く、名前や屋号で呼ばれたりするので…。

登場人物の多さに起因するものではないのですが、全体的にいろいろサービスが盛り込まれていて、風通しが悪くなってしまっている印象。しかし、あとがきで作者本人も言うように、デビュー長編ということもあり、そこに若さや熱さを感じることができる。この作品で勝負をかけるという作者の意気込みと、作中で舞台に執念を燃やす沢村田之助がオーバーラップする。

平成22年1月25日、北森鴻さんは心不全で亡くなられましたた。48歳という若さで。民俗学、骨董、料理といったフィールドを本格ミステリとつなげる稀有な作家でした。僕は特に『メイン・ディッシュ』 が好きでした。蓮丈那智も、冬狐堂も、香菜里屋も、裏京都も、もう新作が出ないと思うと大変大変残念です。

謹んでご冥福をお祈りいたします。

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妄想約50本ノック 岸本佐知子『ねにもつタイプ』

2010 年 1 月 19 日 コメントはありません

本業、翻訳家。岸本佐知子のエッセイ集第二弾が文庫化。

前作『気になる部分』同様、妄想おとぎ話が止まらないエッセイ。文庫にして3ページ分が1編で、それが約50本ノンストップで続きます。

コアラの鼻の材質が気になって翻訳が手につかなくなる、小さな富士山を手元におきたくてたまらなくなる、「一生ひとつの表情しかできない」となったらどんな顔にしたいいか悩む、郵便局で列に割りこんだおばさんと脳内コロッセオで激しい戦いを繰り広げる…。

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北國浩二『リバース』

2009 年 7 月 6 日 コメントはありません

誰もが振り向くような自慢の恋人をエリート医師に奪われてしまった省吾。あることからこの医師が彼女を殺してしまうと「知った」彼は、全てをなげうって奔走する。そんな省吾の「執着」に、周囲の人間はあきれ、次第に離れていってしまうのだが…。やがて、事態は思いも寄らない方向へ転じていく。痛々しいほど真っ直ぐな気持ちだからこそ、つかむことのできた「真実」とは。

帯には乾くるみ推薦の文字。ってことはあんな感じの仕掛けがゲフンゲフンと思ったらそうでもなく。

あらすじには「全てをなげうって奔走」とあるのですが、そんな体のいいものではなく、やっていることはもろストーカー。元カノと医師を監視し付け回す。その執着・粘着たるや、全然感情移入できない。なにをそんなに惚れることがあるのかとちょっと引き気味である。

事件にいったん解決がつくのが全体の4分の3ぐらいのところ。とはいえなんか変なとこあったよなぁと思っていると、そこからさらに急展開が待つ。クルリ、クルリと反転していく事実。終わってから振り返れば、その考えぬかれた構成はなるほど乾くるみ推薦って感じの寄木細工。タイトルの『リバース』は「反転」のreverseでもあり、「再生」のre-birthでもあるのだ。

ただどうしても主人公に肩入れできないのが残念で。彼の物語なのに、なんか彼の味方になれない。あんなに目の前しか見れなかったストーカーが、終盤であんな長い謎解きできるなんてと、どうもちぐはぐな印象が残ってしまうのだった。

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金城一紀『レヴォリューションNo.3』

2008 年 11 月 28 日 コメントはありません

『GO』『SP』の金城一紀がもつシリーズ「ザ・ゾンビーズ・シリーズ」の第1弾。眩しい。眩しすぎる。

君たち、世界を変えてみたくないか?
オチコボレ高校に通う「僕」たちは、三年生を迎えた今年、とある作戦に頭を悩ませていた。厳重な監視のうえ強面のヤツらまでもががっちりガードするお嬢様女子高の文化祭への突入が、その課題だ。

「レヴォリューションNo.3」「ラン、ボーイズ、ラン」「異教徒たちの踊り」短編3本を収録。文庫の装丁だとアホバカ高校生みたいだけど、本編はもっと不良で暴力的でハードボイルド。喧嘩もすれば悪巧みもする。テンションMAXで暴れまくる。

一方、メンバーそれぞれの個性を生かしたトラブルシューティングがとても気持ちいい。女子高への突入、カツアゲされた金の奪還、ストーカー退治といった難題に、これぞといった気の利いた解決をもってくる。

暴力と知力のバランスが絶妙で、かつキャラ立ちも十分(”史上最高の引きの弱さ”山下の爆笑エピソードは一読の価値あり!)十代の衝動とブレーキとを鮮やかに描ききっております。オススメ!

近藤史恵『タルト・タタンの夢』

2008 年 3 月 29 日 コメントはありません

だまって食べればピタりと解ける。

下町の小さなフレンチ・レストラン、ビストロ・パ・マル。風変わりなシェフのつくる料理は、気取らない、本当にフランス料理が好きな客の心と舌をつかむものばかり。そんな名シェフは実は名探偵でもありました。常連の西田さんはなぜ体調をくずしたのか? 甲子園をめざしていた高校野球部の不祥事の真相は? フランス人の恋人はなぜ最低のカスレをつくったのか?……絶品料理の数々と極上のミステリ7編をどうぞご堪能ください。

MYSCON9昼の部のゲストの一人、近藤史恵さんの現時点でのミステリ最新刊。

謎をすべて料理に絡ませていて、シェフが用意した料理を”食べれば解ける”状態にもっていってるのが面白い。北森鴻の「香菜里屋」シリーズを思わせるけども、こちらはフランス料理一本。この縛りをこなすには肩に力が入りそうなところ、さらっと後味軽く作り上げてるのも旨い。いや、巧い。

上品な作品集であり、分量も上品ゆえ、読了後もまだ食べ足りない感じが残るのですが、それはそれ、今後のシリーズ化でメニューが増えていくのも期待しております。

鳥飼否宇『官能的――四つの狂気』

2008 年 2 月 25 日 コメントはありません

数学×生物学 = 変態+バカミス。興奮すればするほど頭が冴え渡る変態数学者と、その数学者の生態を観察する助手が引き起こす3つの事件+アルファ。

変態助教授・増田米尊のフィールドワーク中、ターゲットの女性が公園のトイレで惨殺される。「唯一の」目撃者・増田の話が事実とすれば、彼以外に犯人はいなくなるのだが…?(「夜歩くと…」)
4つの事件に、変態数学者が超絶思考で挑む。

主人公の増田は己の変態さ故に事件に巻き込まれまくりなのですが、この窮地を解決するために行われるのが「周りがよってたかって増田に罵詈雑言を浴びせる」という行為。興奮すると頭が良くなるのでこんなんなってしまうのだ。トミーとマツの「トミ子ー!」みたいなものである。ちがうか。

下ネタを中心としたくすぐりが多くニヤニヤしっぱなしですが、やれパンティだ覗きだストーキングだと書かれた文章に、ページ右上に堂々と「官能的」と大書きされており、とても電車の中で読めない感じで困ったもんですよニンニン。

それでもミステリ部分がしっかり作りこまれており、大小仕掛けあり捨て推理あり。しかしなにぶんベースが変態なので、その上に立つ楼閣たるや、なんとも奇妙な仕上がり。3つの短編を経て最後に待ち受ける「四つの狂気」でその奇妙さも最高潮に。あのあれがあぁだったんかい!とスッキリするやら脱力するやら。

いくつ書いてもますます冴え渡る鳥飼否宇のバカミススキル。今年も健在であります。

岸本佐知子『気になる部分』

2008 年 1 月 12 日 Comments off

本業は翻訳家の人なんですが、これが笑気と寒気を併せ持つ妄想エッセイ。

屋根の上でまといを振るっている江戸っ子は火事にはしゃいでいるんじゃないか、用途がない「男性の乳首」が未だ存在しているのは自分のせいではないか、ロボコップには髭が生えるのか、満員電車で会うキテレツな人たちは自分にしか見えないのか…。

どうでもいいことでもいったん気になると止まらない。これが半ばマジメな口調で語られていくからたまらない。眠れぬ夜に一人でしりとりを始めるが、ルールの策定に明け暮れて終わったりする。可笑しくてしょうがない。

この「気になる」が爆発してるのが3章の「軽い妄想壁」で、ショートショートの形式で妄想が綴られているのだけど、これが飛びすぎていて逆に怖い。サーカスから追われたり口の中で蛙を飼っていたりである。もはやホラーに近く、これまで笑っていたのに段々と悪寒を覚えるほど。

最後の4章「翻訳家の生活と意見」で普通に戻り、翻訳家の苦労話などが語られていても、3章の衝撃が覚めやらず、この人はホントは翻訳家じゃなくて、そう思い込んでいるだけなんではないか、といらぬ心配をしてしまうぐらいでした。

くすくす笑っているうちに現実と虚実がぐちゃぐちゃになる本作。これが作者の初エッセイで、近刊の『ねにもつタイプ』はテレビでも話題になってました(表紙見て思い出した)。恐る恐る読んでみようと思います。