古川日出男『LOVE』

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7月 082007
 

LOVE

東京の品川・目黒一帯を舞台に、数々の登場人物が乱れる群像劇。全てを見ているのは無数の猫たち。

「ハート/ハーツ」「ブルー/ブルース」「ワード/ワーズ」「キャッター/キャッターズ」の4つの短編があり、その間に東京の土地と猫についての挿話がある。各短編には5~6人の登場人物がいて、それぞれを二人称でスケッチし、別々の暮らしをしていた人々が微妙にリンクしていく。小学生は自転車を飛ばし、ミュージシャンはガード下で歌い、少女は都バスに乗り続ける。その文体はとても独特で、短く切った文章がテンポよく積み重なり、品川・目黒・五反田がビュンビュンと後ろへ通り過ぎていく。

このドライブ感はもはや小説というより、音楽に近いかもしれない。ひとつひとつの電球がネオンを作るように、ひとつひとつの楽器が音楽を作るように、一人一人の物語が東京を作っていく。音色はいまも、鳴り止まない。
 

藤野恵美『ハルさん』

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6月 252007
 

最近娘が生まれた親馬鹿パパの僕としては、こんなに胸に来るお話はございません。

主人公「ハルさん」は人形作家。娘のふうちゃんの結婚式の日、ハルさんは式場に向かいながら、ふうちゃんとの日々を思い出す。幼稚園の時の玉子焼き消失事件、小学生の時の失踪騒動…。柔らかな日々には常に、天国にいる奥さんの瑠璃子さんの声があった。

まず構成がズルい。最初はハルさんがふうちゃんの結婚式に向かうシーンから始まる。式場に向かいながら、ふうちゃんとの思い出をかみ締めるハルさん。その回想シーンがひとつの章となり、最初幼稚園児のふうちゃんが、小学生、中学生と章を追う毎に徐々に成長していく。ふうちゃんの成長を共に見守りながら、一方ではどんどん結婚式が近づいてくるのである。なんと切ないことか。

そしてハルさんがあまりにも優しい気持ちをもったお父さんで、もうそこに感情移入してしまって大変。ふうちゃんがちょっと迷子になればおろおろして探し回り、ちょっと家が貧乏っぽい話をされるとしょんぼりし、大人になったふうちゃんと幼稚園のころをいちいち照らし合わせて成長を喜んだりする。

「日常の謎」系ミステリとしても及第点で、特に「子供の発言の裏」に絡んだものに特徴ありな感じ。大人が聞くと普通の意味なんだけど、その時子供としては大変な意味を持っていたり、という意識の違いがほどよくミステリに絡まっております。

父と子の、あの柔らかく暖かな日々。ひとつひとつの成長を追いつつも、読み進めるたびにどんどん迫ってくるふうちゃんの結婚式。全ての親馬鹿お父さんはハンカチのご用意を。

氷川透『密室は眠れないパズル』

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8月 102006
 

エレベーターの前で胸を刺された男が犯人の名を言い残して絶命。その名指しされた男がエレベーターで最上階へ向かうところを目撃される。再度降りてきたエレベーター。扉が開くとそこには血まみれの男の死体。最上階を調べると誰もおらずエレベーターしか下の階に下りる方法はない。時は金曜の夜。場所は出版社のビル。電話は不通になり、非常口は封鎖され、ビルは大きな密室。閉じ込めれらた8人の中に犯人がいるのか。しかし、どうやって…?

論理と推理を重んじる本格推理では時に「パズル小説」と呼ばれる本があります。小説としての物語があまり機能せず、事件のパズル性についてどっぷり語るものと言いますか。この本もまさにそんな「パズル小説」。ビルの大きな密室の中で、上下に移動する密室がある入れ子構造。ここに存分に謎を仕掛け、伏線も張り、読者への挑戦まで挟む楽しみよう。

しかし思うに、「パズル小説」は読者で途中で仕掛けや犯人がわかった(もしくはわかった気になった)時に真価が問われるんじゃなかろうか。「その仮説はいいから、この人はあの時どうだった?」みたいに、考えが先回りして落ち着かない。では小説として楽しもうとしてもそれもどうにも弱い。やきもきしながら最後まで読むとやっぱりその通りだったりして、だから言ったのに的な残念な感じが出てしまう。読者が謎を解けるように設計したゆえに、読者が謎を解くと話が色あせる危険がある。この危険をもっと回避できたらなぁと思った。

あとはビルを閉鎖状況にするのが無理無理で、なかなか大変なことになってるのが見所。閉じ込められた人々は全員携帯電話を持っておらず(営業部員までいるのに!)、防犯上の理由から1階と2階の窓は全て鉄格子がはめられ、ビルに一つしかない避難梯子は犯人によって持ち出され、誰も消火栓の非常ベルを押して助けを呼ぼうと考えないという、消防法を全く無視した出版社になってます。えらいこっちゃ。

氷川 透 / 原書房(2000/06)
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東川篤哉『学ばない探偵たちの学園』

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6月 062006
 

学ばない探偵たちの学園 (光文社文庫)

私立鯉ヶ窪学園の非公認サークル・探偵部の三馬鹿トリオが、学園内で起きた密室殺人事件に挑むシリーズ第1弾。先日シリーズ続編の『殺意は必ず三度ある』が出たので、未読だったシリーズ1作目を押えてみた。

ゆるい小ネタに緻密な伏線を隠し持っている東川作品ですが、本作はキャラも小ネタもトリックもバカ方面にまっしぐら。もう少しで鯨統一朗になってしまうほどであった。ツッコミ役が不足しているからか誰も正気に戻されることもなく、緊張感もなくゆるーく進む展開です。

密室が2つ出てきますが、どちらもかなりのバカトリック。そのために掘った外堀が意外とたくさんあって、逆にその必死さが面白かった。そこも埋めるのかよ!みたいな。久々に”ゆるい”密室ものを読みたくなったらどうぞ。

藤岡真『白菊』

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5月 102006
 
白菊
白菊
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藤岡 真
東京創元社 (2006/03)

画商兼インチキ超能力探偵・相良蒼司の元に持ち込まれた依頼は、「白菊」という絵のオリジナルを探すこと。しかし依頼人は失踪し、探偵は命を狙われる。大男の刑事や記憶喪失の女、骨董マニアが入り乱れ、ロシアの記憶を手繰りながら、物語は混乱していく。

いつもより見通しが立ってるというか、いつもの多数のガジェット使いと比べてシンプルになってる気がする。まぁ藤岡真なので、いろいろややこしいことにはなってるんですが、それでもだいぶ読みやすい。相良蒼司というキャラがしっかり軸になりうる魅力を備えているので、全体が掴みやすいのかな。

絵画と女を巡る二転三転の構図も決まっていて、ミステリらしいミステリ読んだなぁという満足感があります。いやー面白かった。今までの藤岡真の中で一番好きかもしれない。ちょうど一冊前に「コールドリーディング」を読んだので、偽超能力の手口についても楽しめたというのもあるかもしれません。

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