は行の作家 Archive
東川篤哉『もう誘拐なんてしない』
なんて言わないよ絶対。
下関の大学生・翔太郎がひょんなことから知り合ったのは、門司を拠点とする暴力団花園組組長の娘・絵里香。彼女がお金を必要としていることを知り、冗談で狂言誘拐を提案したところ絵里香は大はりきり。こうしてひと夏の狂言誘拐がはじまった。
いっぽう、そんなこととはつゆ知らない組の面々。身代金を要求する電話を受け、「組長よりもヤクザらしく、組長よりも恐ろしい」絵里香の姉・皐月が妹を救うべく立ち上がる。
翔太郎サイドと皐月サイドの二つの視点から騒動が語られる。となると、いつもの東川篤哉なら絶対なにかあるに違いない…と思ってしまい、そんでやはりサプライズ(第4章から衝撃の展開)があって、なんだけど「あれこれやんなかったっけ?」という既視感があるという、うーんそうきますか…、な読後感。気のせいかな…。
とはいえ、ギャグで気をひいて伏線に気づかせないようにするという、ある意味豪腕なセンスは相変わらず。ゆるゆるな掛け合いも楽しく、相手はヤクザなのにほのぼの路線。東川篤哉の小ネタは会話文だけだと寒いときがあるけど、表情とか間とか映像にしたら結構面白いものになるんじゃないのかなぁ。
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深水黎一郎『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ !』
読者が犯人、というテーマに挑んだ第36回メフィスト賞受賞作。ちょっとAmazonからあらすじを引用しますよ。
新聞に連載小説を発表している私のもとに1通の手紙が届く。その手紙には、ミステリー界最後の不可能トリックを用いた<意外な犯人>モノの小説案を高値で買ってくれと書かれていた。差出人が「命と引き換えにしても惜しくない」と切実に訴える、究極のトリックとは?読後に驚愕必至のメフィスト賞受賞作!
確かにいろんな意味でおどろいたけれども…。
「意外な犯人」を突き詰めた極北が「読者が犯人」テーマになるわけで、過去にも『仮題・中学殺人事件』とかあるわけですけども、この作品はその真ん中を支えるアイデアが…こう…なんか…アレなんだなぁ。アレなんですよ。アレアレ。アレだよ母さん。500万振り込んでよ(詐欺)。
動機や実行方法などの外堀を一生懸命埋めているのは理解できるのですが、やはり核がアレだとなんというかズッコケるというか、「あなたが犯人です」といわれても「ちがうよ!」と素で突っ込んでしまわざるを得ないのですよ。アレがなんなのか気になる人は読んでみるといいと思います。
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古川日出男『LOVE』
東京の品川・目黒一帯を舞台に、数々の登場人物が乱れる群像劇。全てを見ているのは無数の猫たち。
「ハート/ハーツ」「ブルー/ブルース」「ワード/ワーズ」「キャッター/キャッターズ」の4つの短編があり、その間に東京の土地と猫についての挿話がある。各短編には5~6人の登場人物がいて、それぞれを二人称でスケッチし、別々の暮らしをしていた人々が微妙にリンクしていく。小学生は自転車を飛ばし、ミュージシャンはガード下で歌い、少女は都バスに乗り続ける。その文体はとても独特で、短く切った文章がテンポよく積み重なり、品川・目黒・五反田がビュンビュンと後ろへ通り過ぎていく。
このドライブ感はもはや小説というより、音楽に近いかもしれない。ひとつひとつの電球がネオンを作るように、ひとつひとつの楽器が音楽を作るように、一人一人の物語が東京を作っていく。音色はいまも、鳴り止まない。
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藤野恵美『ハルさん』
最近娘が生まれた親馬鹿パパの僕としては、こんなに胸に来るお話はございません。
主人公「ハルさん」は人形作家。娘のふうちゃんの結婚式の日、ハルさんは式場に向かいながら、ふうちゃんとの日々を思い出す。幼稚園の時の玉子焼き消失事件、小学生の時の失踪騒動…。柔らかな日々には常に、天国にいる奥さんの瑠璃子さんの声があった。
まず構成がズルい。最初はハルさんがふうちゃんの結婚式に向かうシーンから始まる。式場に向かいながら、ふうちゃんとの思い出をかみ締めるハルさん。その回想シーンがひとつの章となり、最初幼稚園児のふうちゃんが、小学生、中学生と章を追う毎に徐々に成長していく。ふうちゃんの成長を共に見守りながら、一方ではどんどん結婚式が近づいてくるのである。なんと切ないことか。
そしてハルさんがあまりにも優しい気持ちをもったお父さんで、もうそこに感情移入してしまって大変。ふうちゃんがちょっと迷子になればおろおろして探し回り、ちょっと家が貧乏っぽい話をされるとしょんぼりし、大人になったふうちゃんと幼稚園のころをいちいち照らし合わせて成長を喜んだりする。
「日常の謎」系ミステリとしても及第点で、特に「子供の発言の裏」に絡んだものに特徴ありな感じ。大人が聞くと普通の意味なんだけど、その時子供としては大変な意味を持っていたり、という意識の違いがほどよくミステリに絡まっております。
父と子の、あの柔らかく暖かな日々。ひとつひとつの成長を追いつつも、読み進めるたびにどんどん迫ってくるふうちゃんの結婚式。全ての親馬鹿お父さんはハンカチのご用意を。
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氷川透『密室は眠れないパズル』
エレベーターの前で胸を刺された男が犯人の名を言い残して絶命。その名指しされた男がエレベーターで最上階へ向かうところを目撃される。再度降りてきたエレベーター。扉が開くとそこには血まみれの男の死体。最上階を調べると誰もおらずエレベーターしか下の階に下りる方法はない。時は金曜の夜。場所は出版社のビル。電話は不通になり、非常口は封鎖され、ビルは大きな密室。閉じ込めれらた8人の中に犯人がいるのか。しかし、どうやって…?
論理と推理を重んじる本格推理では時に「パズル小説」と呼ばれる本があります。小説としての物語があまり機能せず、事件のパズル性についてどっぷり語るものと言いますか。この本もまさにそんな「パズル小説」。ビルの大きな密室の中で、上下に移動する密室がある入れ子構造。ここに存分に謎を仕掛け、伏線も張り、読者への挑戦まで挟む楽しみよう。
しかし思うに、「パズル小説」は読者で途中で仕掛けや犯人がわかった(もしくはわかった気になった)時に真価が問われるんじゃなかろうか。「その仮説はいいから、この人はあの時どうだった?」みたいに、考えが先回りして落ち着かない。では小説として楽しもうとしてもそれもどうにも弱い。やきもきしながら最後まで読むとやっぱりその通りだったりして、だから言ったのに的な残念な感じが出てしまう。読者が謎を解けるように設計したゆえに、読者が謎を解くと話が色あせる危険がある。この危険をもっと回避できたらなぁと思った。
あとはビルを閉鎖状況にするのが無理無理で、なかなか大変なことになってるのが見所。閉じ込められた人々は全員携帯電話を持っておらず(営業部員までいるのに!)、防犯上の理由から1階と2階の窓は全て鉄格子がはめられ、ビルに一つしかない避難梯子は犯人によって持ち出され、誰も消火栓の非常ベルを押して助けを呼ぼうと考えないという、消防法を全く無視した出版社になってます。えらいこっちゃ。
Amazonおすすめ度:

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