謎解きはディナーのあとで

  • 著者/訳者:東川 篤哉
  • 出版社:小学館( 2010-09-02 )
  • 単行本:255 ページ
  • ISBN-10 : 409386280X
  • ISBN-13 : 9784093862806
  • 定価:¥ 1,575

昨年売れに売れて、本屋大賞を受賞して、嵐の櫻井翔主演でテレビドラマ化までされる本作。デビュー作から東川篤也を読んでる身としては、こんなに大きくなって…という万感の思いと、読み逃した作品がどんどん話題になっていまさら読みづらくなって…という戸惑いの狭間におりました。やっと読みました。どうもすいません。あらすじはこんなんです。

国立署の刑事ながら家に帰れば大富豪のお嬢様の麗子。難事件に疲れて、執事の影山に事件のあらましを話して聞かせると「失礼ですが、お嬢様はアホでいらっしゃいますか」とまさかの暴言。怒りに震えながら話を聞いてみると、影山は事件の謎を聞いただけで解いていて…。

という、いわゆる「安楽椅子探偵」ものの短編集。実は著者初の短編集じゃないのかな?特有の小ネタ混じりの会話劇を散りばめ、登場人物が少ないのでキャラが立ちやすく、ミステリ的にもツボを押さえていて、短編なのでさっくり読める。なるほど面白い。段々影山が失礼になっていくのもいいですなぁ。

これまでの東川作品は長編で何人もの登場人物がドタバタして、一見ギャグと思われた言動や出来事があとで伏線となって効いてくる、という特徴があった。どんな大仕掛けもギャグでねじ伏せる力業も備えてる。でもさすがに短編ではそこまでできない。なので、面白いんだけど長編からのファンはちょっと物足りなさもある。

その代わり、本作の短編ではキャラを絞って、事件も簡単すぎず難しすぎず、ユーモアの質は相変わらずとなっている。つまり間口が広がった=多くの人に読まれるようになったんじゃないかなぁと思った。

本作で東川篤也が気になった人は是非とも過去の長編を読んでほしいですなぁ。もっと笑えてもっと驚けること請け合いですよ!僕のオススメは『館島』と『交換殺人には向かない夜』ですかねー。

あと、執事が主人より狡猾、という設定がお気に召したなら海外作品ですがP.G. ウッドハウス『比類なきジーヴス』もオススメです。

 

解説を書いているのがオードリーの若林なんですよ。

高校でアウトロー的存在のカズキは、スケボーに熱中して毎日を送る。今日も伝説のスケートボーダーのトモロウのところへ相談に行く彼の心に影を落としているのは、同級生が学校の屋上から落ちて死んだことだった。そして、目の前で事件は起きた。自分って何なんだよ、なんで生きてるんだよ―青春の悩みを赤裸々に描いた快作。

カズキが視点となる「オレンジ・アンド・タール」と、カズキが信頼を寄せる”伝説のボーダー”の浮浪者トモロウが視点となる「シルバー・ビーンズ」の中編二編からなる一冊。二編の時系列はほぼ同列で、カズキがトモロウと話しているとき、トモロウがどんな状態にいるかが後でわかるようになっている。

同級生の突然の自殺に、カズキをはじめ学校や友人たちは不安定な波の中にいる。グラグラな自分、キワキワな友人。青い春はひとりの死によりその濃度を高めて苦しめる。そこで「外の存在」であるトモロウさんに救いをよせるようになる。トモロウ=Tomorrowを期待するように。

「オレンジ・アンド・タール」では登場人物のほとんどが不安定な状態にいる。安定しているトモロウを頼るが、そこである事件が起こる。一方、「シルバー・ビーンズ」ではトモロウが自らを語りだす。彼もまた、不安定な波の中にいるのだ。

本作では全編を通しスケボーをメタファーとして、自分と世界の境界を見つけようとする。テールを蹴って飛んでいる間「無」になる瞬間を見る。繰り返される専門用語とスピード感と虚無。まるで禅のような世界にひきこまれる。

加えて、この文庫の解説をオードリーの若林が書いているのも必見。オードリーが「ダ・ヴィンチ」の表紙に登場したときも「オレンジ・アンド・タール」の単行本を手にしていたほど思い入れがある若林。「僕にとって「オレンジ・アンド・タール」は単なる小説ではない」と語る。

オードリー若林の解説は、作品解説というよりも一読者の視点による手記に近い。自分の中の世間に対するわだかまりと、それを芸人として昇華させるまでの間に「オレンジ・アンド・タール」が存在する。それがまた、『「オレンジ・アンド・タール」を読んだ男』として本編の一部になっているようにも感じるのだった。

カリスマなどいない。みんな自分と世界に折り合いをつけようとしている。自分を求める思春期にも、迷える大人にも、なんらかのヒントをくれる一冊です。

 

空想オルガン

  • 著者/訳者:初野 晴
  • 出版社:角川書店(角川グループパブリッシング)( 2010-09-01 )
  • 単行本:286 ページ
  • ISBN-10 : 4048740970
  • ISBN-13 : 9784048740975
  • 定価:¥ 1,575

吹奏楽の“甲子園”普門館を目指すハルタとチカ。ついに吹奏楽コンクール地区大会が始まった。だが、二人の前に難題がふりかかる。会場で出会った稀少犬の持ち主をめぐる暗号、ハルタの新居候補のアパートにまつわる幽霊の謎、県大会で遭遇したライバル女子校の秘密、そして不思議なオルガンリサイタル…。容姿端麗、頭脳明晰のハルタと、天然少女チカが織りなす迷推理、そしてコンクールの行方は?『退出ゲーム』『初恋ソムリエ』に続く“ハルチカ”シリーズ第3弾。青春×本格ミステリの決定版

「退出ゲーム」(→以前の感想)「初恋ソムリエ」(→以前の感想)に続くハルタ&チカのシリーズ第三弾。4編からなる短編集。今回はいよいよ吹奏楽のコンクールに挑戦。

これまでの二作は、影を抱えた演奏者達を謎解きという「憑き物落とし」をして仲間を増やしてきた。生徒一人をフィーチャーして、その暗がりに光を照らしてきた。その構造が今作ではあまり使えない。

コンクール会場がメインなので、会場周辺で起きたトラブルや他校の生徒との絡みがミステリ的なネタになる。なので前二作のような憑き物落としまでのインパクトはなくちょっと物足りない。ハルタの活躍も抑え目な様子。

それでもこのシリーズとしては通過せねばならない一作であることは確か。コンクールでの経験を経て、さらに成長するであろう登場人物たちに期待が高まってしまうのだ。

彼らの物語を、もっと読みたい。

 

作中で刑事・加賀恭一郎がこう言っている。

「捜査もしていますよ、もちろん。でも、刑事の仕事はそれだけじゃない。事件によって心が傷つけられた人がいるのなら、その人だって被害者だ。そういう被害者を救う手だてを探しだすのも、刑事の役目です」
―第六章 「翻訳家の友」 P.220―

日本橋の片隅で発見された四十代女性の絞殺死体。着任したばかりの刑事・加賀恭一郎は、未知の土地を歩き回る。

9編からなる連作短編集で、短編ごとに煎餅屋、料亭、瀬戸物屋など視点人物が入れ替わるのだけど、肝心な殺人事件の方はなかなか解決に向かわない。それぞれの登場人物たちの身に起きた小さな謎を、加賀がその洞察力で解き明かしてまわっているのだ。いわゆる「日常の謎」をシリーズキャラクターの加賀恭一郎にやらせているのである。これ、今までなかったんじゃないかなぁ。

保険の外交マンの行動が変だったとか、犬の散歩コースに矛盾があったりとか、各短編に出てくる謎は小さなもの。しかしその謎が解かれるたびに親子・夫婦・嫁姑などのもつれた糸が解けていき、わだかまりが溶けていく。これらは結局殺人事件には関係ないのだけど、「事件と関係ない」ことがわかることによって、逆にどんどん外堀が埋まっていく。真相に向けてじわじわと輪が小さくなっていく。

また、被害者の女性は「最近日本橋に越してきた」「熟年離婚してから二年経過」という設定なので、日本橋には親しい人がおらず最近の様子がわからない。お店で交わした会話などから、徐々に被害者の人柄も明らかになっていく。じわじわと光が当たって鮮明になっていく。

手がかりを次々に得て真相に近づくミステリが足し算ならば、『新参者』はどんどん関係ないこと明らかにして最後に真相を残す引き算のミステリとも言えるのかな。引かれていく様子は心に残る人情話になっていて、被害者の人となりは逆にどんどん盛られていく。

一読して、派手なサプライズとか感じず、引き算の構成ゆえ犯人も最後の最後まで全然特定できないし、もぅ…と思っていのだけど、読み終わってからしみじみ考えているとなんかどんどん評価があがっています。なんだろこれ。よくこんなもの作れるよなぁと、まさに日本橋で民芸品を手にとったような感慨が残るのだった。
 

 

初恋ソムリエ

  • 著者/訳者:初野 晴
  • 出版社:角川書店(角川グループパブリッシング)( 2009-10-02 )
  • 単行本:260 ページ
  • ISBN-10 : 4048739980
  • ISBN-13 : 9784048739986
  • 定価:¥ 1,680

廃部寸前の弱小吹奏楽部に所属する穂村チカと上条ハルタ。吹奏楽部の甲子園「普門館」を目指して日々練習を重ねる二人に、難事件が?

『退出ゲーム』(→感想)の続編。音楽室の侵入者を追う「スプリングラフィ」、地学研究会の部長を捕まえる密命「周波数は77.4Hz」、一ヶ月の間に席替えを三回も行ったあげく自宅謹慎になった教師の謎「アスモデウスの視線」 、寓話で語られる埋れた初恋の記憶「初恋ソムリエ」、の4編からなる短編集。

学園モノの日常の謎モノなのだけど、事件の関係者がみんな天才・奇才・曲者ぞろいですごい楽しい。前作のようなミステリ的なサプライズよりも、登場する学生たちの癒しと再生に重きを置いてある感じ。

たぶんその「癒しと再生」要素だけ取り出したらベタな展開になるのだろうけど、奇妙な事件・奇特な人物・奇抜な真相のおかげでそのベタさが薄皮に包まれているなぁ、と思った。目くらまし、というか。

新メンバーが増えてきた吹奏楽部に今後も期待大。あといかにも初恋っぽい表紙ですが、表題作の「初恋ソムリエ」はお年寄りが40年くらい前の初恋の記憶を辿る話なので、なんかちょっとズルいと思ったりして。

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