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人生はスタンプラリー 博多大吉『年齢学序説』

2010 年 3 月 1 日 コメント 2 件

年齢学序説

選ばれし者は26歳の時に時代を掴む!?芸人、アスリート、歌手、漫画家、格闘家、アニメ主人公…ありとあらゆるジャンルを調べ尽くして発見した、「年齢に隠された成功の秘密」とは。

博多華丸・大吉の「アタックチャンスじゃないほう」博多大吉初の著書。そこらのタレント本と比べると本人の芸風をも暗示するような超地味な表紙。しかし一線を画すのはその分量。約250ページにわたり文章がぎっしり。新書2.5冊分はあるのではないか。それでも一気に読んでしまった。これはおもしろい。

『年齢学序説』は「選ばれし者は26歳の時に時代をつかむ」という説からその幕を明ける。一線で活躍している芸人の代表的な番組のスタートやブレークのきっかけといったターニングポイントが26歳であることが挙げられる。こんな感じ。

・ダウンダウンが「ガキの使いやあらへんで!」を始めたのが26歳
・とんねるずが「みなさんのおかげです」を始めたのが26歳
・ウッチャンナンチャンが「やるならやらねば」を始めたのが26歳
・ナインティナインが「めちゃイケ」を始めたのが26歳
・志村けんが「東村山音頭」をヒットさせたのが26歳
・明石家さんまが「オレたちひょうきん族」で二代目ブラックデビルに選ばれたのが26歳

そして、自身、博多華丸・大吉はというと、R-1ぐらんぷりで優勝してブレークのきっかけとなった「児玉清のモノマネ」を華丸が開発したのが26歳なのだ。

そしてこの説はお笑い界だけで収まることはない。野球・サッカー・格闘技(とりわけ新日本プロレス)・演歌・J-POP・漫画にいたるまで、幅広く展開していく。時に強引に26歳に括りつけられる場面もあれど、そこに持っていくまでの飄々とした語り口で、時にくすぐりを入れ、あちこちから知識を総動員し、それでいて詐欺師ばりの論理展開でグイグイ読んでしまう。対象とする人物が「年齢学」で考察する年齢に到るまでを伝記のように綴るため、自分の興味の薄い分野でも全然大丈夫だった。

後半、今度は38歳・51歳という数字を使って、「元気が出るテレビ」がもたらした革命、FUJIWARAが不遇時代からどのように今の地点にこれたか、そして綾小路きみまろの”潜伏期間30年”についてなど、お笑い好きにはたまらない考察が続く。

そして最終章。『第十章 経験としての26歳』

博多華丸・大吉の26歳時代は「博多華丸が児玉清のモノマネを開発した年」だった。ではこのとき、博多大吉自身はどんな年だったのか。これが一章まるごと使って語られる。中学の時イケてなかったどころではない、本当の、本当の、暗い年。それでいて、確実に今の彼に必要だった年の出来事を。これは一つのサプライズであるので、ここでは詳細については触れないけど、彼らの軌跡でもあり奇跡でもある一年を是非読んでほしい。

最後に、本書で個人的に心に残った文章を引用しておきます。

 個人的には、人生はスタンプラリーだと思っている。人は誰しも「記憶」という台紙を持ち、そこに「思い出」というスタンプを押しながら、それぞれの「寿命」という有効期限内を生きているのだ。
 どうせ押すというならば、できるだけ色鮮やかなスタンプを押したいと思うのが人間である。だからこそ、我々には「向上心」という名の「欲望」が装備されているのではないだろうか?無論、その出来映えには個人差がある。懸命に努力してもスタンプがズレたり、予想外のアクシデントで上下が逆になったり、一瞬の判断ミスで色が滲んだりすることも、人生においては多々あるだろう。しかし、決して忘れてはいけないのは、それでも「押している」ということだ。そこに「優劣」は断じてない。そこにあるのは、その出来栄えに本人が満足しているかどうか、ただその一点だけなのだ。 (P.150)

数々の人生から、色鮮やかなスタンプを見つけていく「年齢学序説」。

あとがきに「150」という数字を用いた著者の今後の人生の目標が書いてあるのだけど、上に引用した文章がちょうど「150」ページに載っているのは、偶然なのか?必然なのか?

変わり者たちの楽園 初野晴『退出ゲーム』

2010 年 1 月 18 日 コメントはありません

穂村チカ、高校一年生、廃部寸前の弱小吹奏楽部のフルート奏者。上条ハルタ、チカの幼なじみで同じく吹奏楽部のホルン奏者、完璧な外見と明晰な頭脳の持ち主。音楽教師・草壁信二郎先生の指導のもと、廃部の危機を回避すべく日々練習に励むチカとハルタだったが、変わり者の先輩や同級生のせいで、校内の難事件に次々と遭遇するはめに―。

初野晴は初めて読みます。4編からなる短編集。吹奏楽部の部員を増やす=難題を解決して仲間にする、という、これだけ取り出すとRPGみたいな展開。1編づつ奏者を仲間にしていく中で、いわゆる日常の謎系の青春ミステリになるんだろうけど、全然「日常」じゃないのがポイント。

4編のあらすじはそれぞれこんな感じ。

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東川篤哉『ここに死体を捨てないでください! 』

2009 年 12 月 11 日 コメントはありません

「死んじゃった…あたしが殺したの」有坂香織は、妹の部屋で見知らぬ女性の死体に遭遇する。動揺のあまり逃亡してしまった妹から連絡があったのだ。彼女のかわりに、事件を隠蔽しようとする香織だが、死体があってはどうにもならない。どこかに捨てなきゃ。誰にも知られないようにこっそりと。そのためには協力してくれる人と、死体を隠す入れ物がいる。考えあぐねて、窓から外を眺めた香織は、うってつけの人物をみつけたのであった…。会ったばかりの男女が、奇妙なドライブに出かけた。…クルマに死体を積み込んで。烏賊川市周辺で、ふたたび起こる珍奇な事件!探偵は事件を解決できるのか?それとも、邪魔をするのか?驚天動地のカタルシス。

『烏賊川市シリーズ』の5作目。上記のあらすじに加え、シリーズキャラの私立探偵・鵜飼の元には山田と名乗る女性から依頼の電話があるのだけど、待てど暮らせどやってこない。女性が言っていた「クレセント荘」(温泉つき)に行ってみると、そこに死体を隠し終わった男女が居合わせていて…、という展開。

作者お得意の勘違いドタバタギャグに、周到に伏線を組み入れて、最後にどえらいバカトリックが待っている王道パターン。みんながみんな何か思い違いをしていて、勝手に仮説を立ててるので、最後の方までなんも真実に近づかないという(笑)。

クライマックスは結構ド派手なことになるのだけど、この作者が今までやってきたに比べるとそんなにお馬鹿に見えないというか、結果的にちょうどいい按配に収まった感じ。

装丁が狙いすぎてちょっといまいちなのがなぁ…。

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東川篤哉『もう誘拐なんてしない』

2008 年 7 月 1 日 コメントはありません

なんて言わないよ絶対。

下関の大学生・翔太郎がひょんなことから知り合ったのは、門司を拠点とする暴力団花園組組長の娘・絵里香。彼女がお金を必要としていることを知り、冗談で狂言誘拐を提案したところ絵里香は大はりきり。こうしてひと夏の狂言誘拐がはじまった。
いっぽう、そんなこととはつゆ知らない組の面々。身代金を要求する電話を受け、「組長よりもヤクザらしく、組長よりも恐ろしい」絵里香の姉・皐月が妹を救うべく立ち上がる。

翔太郎サイドと皐月サイドの二つの視点から騒動が語られる。となると、いつもの東川篤哉なら絶対なにかあるに違いない…と思ってしまい、そんでやはりサプライズ(第4章から衝撃の展開)があって、なんだけど「あれこれやんなかったっけ?」という既視感があるという、うーんそうきますか…、な読後感。気のせいかな…。

とはいえ、ギャグで気をひいて伏線に気づかせないようにするという、ある意味豪腕なセンスは相変わらず。ゆるゆるな掛け合いも楽しく、相手はヤクザなのにほのぼの路線。東川篤哉の小ネタは会話文だけだと寒いときがあるけど、表情とか間とか映像にしたら結構面白いものになるんじゃないのかなぁ。

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深水黎一郎『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ !』

2007 年 7 月 10 日 Comments off

読者が犯人、というテーマに挑んだ第36回メフィスト賞受賞作。ちょっとAmazonからあらすじを引用しますよ。

新聞に連載小説を発表している私のもとに1通の手紙が届く。その手紙には、ミステリー界最後の不可能トリックを用いた<意外な犯人>モノの小説案を高値で買ってくれと書かれていた。差出人が「命と引き換えにしても惜しくない」と切実に訴える、究極のトリックとは?読後に驚愕必至のメフィスト賞受賞作!

確かにいろんな意味でおどろいたけれども…。

「意外な犯人」を突き詰めた極北が「読者が犯人」テーマになるわけで、過去にも『仮題・中学殺人事件』とかあるわけですけども、この作品はその真ん中を支えるアイデアが…こう…なんか…アレなんだなぁ。アレなんですよ。アレアレ。アレだよ母さん。500万振り込んでよ(詐欺)。

動機や実行方法などの外堀を一生懸命埋めているのは理解できるのですが、やはり核がアレだとなんというかズッコケるというか、「あなたが犯人です」といわれても「ちがうよ!」と素で突っ込んでしまわざるを得ないのですよ。アレがなんなのか気になる人は読んでみるといいと思います。
 

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古川日出男『LOVE』

2007 年 7 月 8 日 Comments off

東京の品川・目黒一帯を舞台に、数々の登場人物が乱れる群像劇。全てを見ているのは無数の猫たち。

「ハート/ハーツ」「ブルー/ブルース」「ワード/ワーズ」「キャッター/キャッターズ」の4つの短編があり、その間に東京の土地と猫についての挿話がある。各短編には5~6人の登場人物がいて、それぞれを二人称でスケッチし、別々の暮らしをしていた人々が微妙にリンクしていく。小学生は自転車を飛ばし、ミュージシャンはガード下で歌い、少女は都バスに乗り続ける。その文体はとても独特で、短く切った文章がテンポよく積み重なり、品川・目黒・五反田がビュンビュンと後ろへ通り過ぎていく。

このドライブ感はもはや小説というより、音楽に近いかもしれない。ひとつひとつの電球がネオンを作るように、ひとつひとつの楽器が音楽を作るように、一人一人の物語が東京を作っていく。音色はいまも、鳴り止まない。
 

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藤野恵美『ハルさん』

2007 年 6 月 25 日 Comments off

最近娘が生まれた親馬鹿パパの僕としては、こんなに胸に来るお話はございません。

主人公「ハルさん」は人形作家。娘のふうちゃんの結婚式の日、ハルさんは式場に向かいながら、ふうちゃんとの日々を思い出す。幼稚園の時の玉子焼き消失事件、小学生の時の失踪騒動…。柔らかな日々には常に、天国にいる奥さんの瑠璃子さんの声があった。

まず構成がズルい。最初はハルさんがふうちゃんの結婚式に向かうシーンから始まる。式場に向かいながら、ふうちゃんとの思い出をかみ締めるハルさん。その回想シーンがひとつの章となり、最初幼稚園児のふうちゃんが、小学生、中学生と章を追う毎に徐々に成長していく。ふうちゃんの成長を共に見守りながら、一方ではどんどん結婚式が近づいてくるのである。なんと切ないことか。

そしてハルさんがあまりにも優しい気持ちをもったお父さんで、もうそこに感情移入してしまって大変。ふうちゃんがちょっと迷子になればおろおろして探し回り、ちょっと家が貧乏っぽい話をされるとしょんぼりし、大人になったふうちゃんと幼稚園のころをいちいち照らし合わせて成長を喜んだりする。

「日常の謎」系ミステリとしても及第点で、特に「子供の発言の裏」に絡んだものに特徴ありな感じ。大人が聞くと普通の意味なんだけど、その時子供としては大変な意味を持っていたり、という意識の違いがほどよくミステリに絡まっております。

父と子の、あの柔らかく暖かな日々。ひとつひとつの成長を追いつつも、読み進めるたびにどんどん迫ってくるふうちゃんの結婚式。全ての親馬鹿お父さんはハンカチのご用意を。

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