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あ行の作家 Archive

有栖川有栖『乱鴉の島』

乱鴉の島
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火村シリーズでは初の孤島モノ。鴉だらけの島を舞台にして、有名作家(≠有栖)を取り巻く奇妙な人々と、二つの死体。

とにかく序盤はハプニングの連続。火村と有栖が島の民宿にバカンスに出かけるところから始まるのだけど、船頭に勘違いで別の島に届けられ、島に1軒しかない人家には11人も人が集まっていて、家主が隠匿した著名作家でビックリして、帰りの船は来なくって、どうにか泊めてもらって、やれやれと思ったら大富豪のIT社長がヘリで登場するのである。もうなにがなにやら。

しかし全体を通すと「孤島モノ」で「クローズドサークル」にしては派手な展開にはならない。2つの殺人事件を結ぶロジックはさすが手馴れたもの(こんな理由で電話線が切られるなんて!)だけど、もうひとつの線である「人々が島に集まっている真の目的」の不可解さが静かに底辺を流れていて、話に対して機敏な動きをさせないのである。謎が雰囲気に飲まれている、というか。

孤島モノとしては地味だけど孤島でしかできない、ありふれた、しかし奇妙なミステリ。

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浅暮三文『ポケットは犯罪のために 武蔵野クライムストーリー』

ポケットは犯罪のために 武蔵野クライムストーリー (講談社ノベルス)
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6つの短編+書き下ろしの幕間に、最後に解説を付け加え、奇妙な味の連作に仕上がっている本作。武蔵野を舞台に、墓地に人魂が浮かび、RCカーが暴走し、密室から遺言状が消え、学生は薔薇を抱え、強盗は古本に宝石を隠し、白シャツの男がいつのまにか赤シャツになっている。

日常の謎のようで非日常な事件の数々は、まさにミステリーとファンタジーを行ったり来たりする作者の立ち位置そのままの浮遊感。「メフィスト」に掲載された短編を後付けでつなぎ合わせているのだけど、短編同士に伏線があるわけじゃないので密接度はそんなに濃くはない。むしろ短編をもう一つ書き下ろしてバラバラにして幕間に紛れ込ませた、という感じ。全編男の一人語りで構成された、こちら幕間の試みがこの本でやりたかったことかもなぁ。

石持浅海『顔のない敵』

顔のない敵 (カッパ・ノベルス)
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昨年の『扉は閉ざされたまま』の高評価で一躍本格推理の旗手として大注目となった石持浅海。作者のデビューのきっかけとなった、光文社『本格推理』掲載作品を軸にして編まれた短編集。「対人地雷」テーマの6編+処女作短編の計7編。

1997年の処女作掲載から2006年のジャーロ夏号掲載作品まで収められており、デビューから現在までの軌跡を見ることが出来るわけですが、これがそんなに劇的な変化がない。処女作こそちょいと野暮ったい印象あれど、言い換えれば描写もトリックも最初から一定のクオリティを保っていたわけで、これはスゴイことだよなぁ。

「対人地雷」テーマ6編は全てミステリ的な趣向が違っていて、それぞれが別なメッセージを持っているのも特色。NGOの活動内容、地雷除去の困難さ、資金集めに至るまで、対人地雷除去活動における障壁を描き出し、事件が解決を見せるとまた色を変えてこれら障壁が圧し掛かるようになっている。地雷と事件の密接な絡ませ方は、さながら周到な計算の上に立つ工芸品のよう。

ただやはり「最初から変わらない」のは動機や事件後の処理も同様で、既出のあの作品やあの作品みたいなのが多いんだよなぁ。登場人物たちが地雷除去という正義を掲げたとしても、その整理の仕方はちょっとどうなのか…と個人的にうまく受け入れられない部分が多かったのも事実。活動内容が正しい事だけに、このギャップがひっかっかるのだった。

大山誠一郎『仮面幻双曲』

仮面幻双曲 (小学館ミステリー21)
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時代は戦後まもなく。双子の弟から命を狙われている、という兄から警護を依頼された私立探偵。双子はかつて紡績会社を経営していたが、双子同士で諍いをおこし、弟は家を出て東京へ。そして東京で整形手術を受け、その医者を殺しているという。本当に兄を殺しに来るのだろうか、と一晩番をした探偵であったが、翌朝兄は変わり果てた姿で発見される。弟がやったのか?だとすると今はどんな顔になっているのか?

そうこうしていると第二の殺人が始まったりするわけなのですが、しかしこの作品、寄り道なしで事件まっしぐらである。体脂肪率0%といったところか。戦後という舞台設定や、旧家の変な風習や、探偵役が兄妹だったりとかしてるのに、ケレン味や遊びや煽りはほとんどなく直線でゴールに向かう。金田一ばりにいろいろ出来そうな環境だっただけにちょっと惜しい気がする。

そのせいなのか、施されたトリックもなかなかの大技にも関らず、「あーそうすればできるよねー」といった感想になってしまって…。これが本格だ、と言われればそうなのですが、もっと演出がよかったらなぁ。本格の骨子が優れていても、プレゼンテーションのスキルを期待してします自分がいます。

大倉崇裕『福家警部補の挨拶』

福家警部補の挨拶 (創元クライム・クラブ)
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好きが高じてコロンボのノベライズまでやってしまうほどのコロンボ好きの作者が、真っ向から倒叙ものに挑んだ短編集。帯には「コロンボ、古畑任三郎の系譜」の文字。

犯人は図書館司書、大学教授、女優、酒蔵の社長といった面々で、頭脳明晰のつわもの揃い。そんな犯人の皆さんをこれでもかとネチネチ追い詰めるのは題名にもある通り福家警部補(女性)。ふち無し眼鏡に低身長。どんな人にあっても警察官と思われない容姿、何度徹夜しても乱れない表情、ずっと持ってるのは擦り切れた手帳。それでもキャラ付けは最小限にしてあって、犯人との知恵比べに存分に手間がかけられています。この出来がまた素晴らしい。

倒叙ものは犯行が行われるところから書かれるわけで、読者にもどんなトリックが使われたかは伝わっている。こうなると最大の見せ場は犯人の指摘ではなく、最後に突きつけられる決定的な証拠であり、それが意外であればあるほど読者に驚きをもたらす。この辺の”晴れ舞台”の設け方、伏線の張り方がどれも巧いんだよなぁ。

確かなクオリティであり、シリーズ第1作ということで、今後大化けの予感。『川に死体のある風景』もよかったし、個人的に大倉崇裕株が急上昇しています。今が買い。

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