Home > 読書感想文 > あ行の作家 Archive

あ行の作家 Archive

石持浅海『Rのつく月には気をつけよう』

食べ物と色恋を絡めた、いわゆる「日常の謎」の連作短編集。今年の石持浅海は『人柱はミイラに出会う』 『心臓と左手 座間味くんの推理』と全て短編集なんだけど、全て趣向が違うのがおもしろい。

舞台は全てマンションの一室。学生時代からの飲み仲間三人が企画した飲み会を行うのだけれど、毎回ゲストを一人連れてくる。酒と肴も毎回異なり、牡蠣や銀杏、チョコレートフォンデュなど。飲みが進むうちに、ゲストがポツリとそのときの肴についてつぶやいた一言が謎解きのスタートの合図になる。

毎回食べ物と色恋の趣向が変わるのでなかなかに凝っていておもしろい。だけれども、理詰めの展開を得意とする作者だけに、その論理の刃が日常レベルに降りてきてしまうと、そこまで普段考えて行動するかしら…とどうも行き過ぎた感じになってしまう。

ただ、色恋のとなると人は無駄にいろんなことを考えてしまうわけで(あの時のあの発言はなにか意図があって…とか)、その普段使いじゃない思考をいわば「狂人の論理」として扱うとこんな作品になるのかなぁとも思います。

油断してると最後に大ネタがあったりして、意外にサービス精神旺盛な本なのではないか。装丁もかわいいしねぇ。

  • Comments (Close): 0
  • Trackbacks (Close): 0

石持浅海『心臓と左手 座間味くんの推理』

傑作『月の扉』で活躍した名も無き探偵役”座間味くん”リターンズ。飲み屋の個室で飲み食いしながら、大迫警視から聞いた解決済み事件の話をいともたやすくひっくり返す。安楽椅子探偵ものの短編集。これはすごい。かなりの高品質ですよ本格ファンの皆さん。

一つ一つの分量はとても短く、事件のあらまし→別の解釈という流れがシームレスに続く。その短さの中で180度近いひっくり返しを無理なく何度もこなす力量はさすが。綺麗な装丁とも相まって、とてもシャープな仕上がりの本になってます。

また、事件を起こすのがテロリストや過激派、新興宗教に環境保護団体という、この手の作品ではなかなか見られない相手で、その分事件やロジックに新味が出ているのもプラスに作用してるのではないかなぁ。「貧者の軍隊」での密室ができた理由、「心臓と左手」での犯人の行動原理、「水際で防ぐ」のトンでもない返し、どれも印象深い。

しかし困ったのが最後に収められている「再会」。それまでと趣向が変わり『月の扉』の後日談なんですが…ただの憶測でその人にそんなことを言ってはいけないだろうという思いがどうしてもぬぐえず。”座間味くん”のクールな印象が冷血漢に見えた一編で、なんかもやもやとした読後感になってしまった。

■関連記事
石持浅海『人柱はミイラに出会う』
石持浅海『顔のない敵』
石持浅海『セリヌンティウスの舟』
石持浅海『扉は閉ざされたまま』
石持浅海『水の迷宮』

  • Comments (Close): 0
  • Trackbacks (Close): 0

蒼井上鷹 『出られない五人』

急逝した小説家を偲ぶ為に、彼ゆかりのバーに集まった5人の男女。バーは廃業ずみなのだけど、管理人に無理言って忍び込んでいる。宴もたけなわのころに見つかる身元不明の死体。バーは翌朝まで鍵がかけられた密室状態。そのうえ彼らにはそれぞれ「出たくない」理由があったので…。

この本格ミステリ的には”いかにも”な設定で、フーダニットでもクローズドサークルでもないというのが、これから読む方への一番の注意点であります。まぁ、ちょっと、えー、って感じでしたが…。

あくまで「偶然が重なってどんどん話が変な方向へ転がっていく」もの狙いの話し運び。章ごとに登場人物視点が変わるので、彼らの”隠し事”が徐々に明らかになっていくようになっている。バーの間取り、ガシャポンなどの小道具もフルに使ってる、なんですが…。

ドタバタ、スラップスティック、というにはどうも「理性」がはっきりしているのである。登場人物もなんとなく理屈っぽい。まさに閉鎖状況で殺人がおきた時の本格ミステリの登場人物の感じというか。ドタバタも本格もどっちも好きで、という思いが逆にどっちつかずを生んでいるような、そんな気がしました。

もうメチャクチャか、ガチガチか、もっと勢いよく振り切れちゃうともっと面白くなるのではと思いました。

  • Comments (Close): 0
  • Trackbacks (Close): 0

石持浅海『人柱はミイラに出会う』

「人柱」「お歯黒」「参勤交代」が今の日本でも行われていたら?

『顔のない敵』に続く、石持浅海2つめ短編集の本作は現代の日本が舞台。だけど、大昔の風習が現在版にアレンジされて生きている変な世界。独身女性はお歯黒しに歯医者に行くし、厄年の人は1年間休暇がもらえたりする。

で、この変な世界に本格推理が絡むのですよ。例えば表題作。マンションやビルを建てる際、土地の神様を鎮めるため、現代版人柱である”人柱職人”は工事の基礎部分作られた小さな部屋にこもり、工期が終わるまで数ヶ月~数年間一人で暮らすのである。出てきちゃだめ。で、とある現場で工事が終わり、さぁ出てきてくださいよとドアを開けたら中にいたのは寝袋にくるまれたミイラだったのでさぁ大変。ドアの鍵を持ってる人は限られてるけど、人柱を殺したら土地の神様怒っちゃうし、そもそもこのミイラ本当に人柱職人なの?っていうかなんでわざわざミイラに?

過去の石持作品を見ると、ハイジャック機内や閉ざされたままの密室など、特異な状況をあくまでロジカルに処理するのが特徴。その”特異な状況”があくまで現実の上に乗っかっているので、動機が特殊すぎたりなどしてちょっとそれどうなのかみたいになる事もあった。今回はもうスタートがおかしなことになってるので、その辺ぜんぜん気にならない。

「議会では議員一人ひとり黒衣がついてアシスタントする」なんておかしな設定と、チェスタトンのあれが見事に融合した『黒衣は議場から消える』なんてかなり極上な出来です。後半になるとちょっと息切れしてくるのだけ気になるかな…。

そうそう、パラレルワールドの日本+本格推理といえば、山口雅也『日本殺人事件』『続・日本殺人事件』もめっさ面白いですよ。読み比べてもいいかも。

  • Comments (Close): 0
  • Trackbacks (Close): 0

大倉崇裕『警官倶楽部』

マニアが過ぎてもはや特使能力がついてきちゃった警察マニア達が、巻き込まれたトラブルを解決させるために東奔西走する大倉崇裕『警官倶楽部』。同じ作者による『七度狐』等の本格路線より『無法地帯』のアクションもの寄りです。

盗聴・鑑識・パトカー・銃器・逮捕術・尾行などなど、様々な警察マニアがそれぞれの技能を駆使するわけで、その幅広さはとても面白い。ただ秘密の倶楽部にしてはだいぶ人数が多くって(10人以上?)薄味になっちゃった印象。困った→あいつを呼ぼう→よかった→困った→別のマニア登場→よかった→困った…の連続でキャラが使い捨て気味なので、それぞれイジったり組合せたりしたらもっと面白いことできそう。盗撮マニアの双子とか。

  • Comments (Close): 0
  • Trackbacks (Close): 0

Home > 読書感想文 > あ行の作家 Archive

Banner
あわせて読みたい
フィードメーター - イノミス
track feed trackfeedリンク元
この日記のはてなブックマーク数

Return to page top