セカンド・ラブ

1983年元旦、僕は春香と出会う。僕たちは幸せだった。春香とそっくりな女・美奈子が現れるまでは。良家の令嬢・春香と、パブで働く経験豊富な美奈子。うりふたつだが性格や生い立ちが違う二人。美奈子の正体は春香じゃないのか?そして、ほんとに僕が好きなのはどっちなんだろう。

『イニシエーション・ラブ』の衝撃ふたたび、の煽り。ふたりのそっくりな女性の間で揺れ動く男の恋愛模様が淡々と続く。そして最後に明かされる…というイニラブと似た構成。

確かに衝撃のラスト、ではあるのだけど、ミステリ読みとしては「そっくりな二人」を出されるとどうしてもアレを疑ってしまう。前作の衝撃の教訓もあるので身構えすぎてしまった。純粋に楽しめずちょっと不幸なことに…。

作者のことなので、恐らくまだ気づいてない伏線もたくさんあるんだろうなぁ。頭を空っぽに、物語の流れるままに任せれば、ラストにひっくり返ることは間違いなし。女は怖いわー。

ちなみに。

「セカンド・ラブ」と言えば中森明菜。それに対して「ファースト・ラブ」と言えば宇多田ヒカル。

というわけで、この本の偶数章のタイトルは宇多田ヒカルの、奇数章のタイトルは中森明菜の曲タイトルから取られています。お持ちの方はご確認を。

 

小鳥を愛した容疑者

  • 著者/訳者:大倉 崇裕
  • 出版社:講談社( 2010-07-29 )
  • 単行本(ソフトカバー):354 ページ
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鬼警部×動物オタク=動物満載奇天烈事件!捜査一課でならした鬼警部。事故後の復帰先は世にも不思議な部署だった……。動物マニアがその愛ゆえに引き起こす事件! 知られざる生態が事件解決のキーに!

4編からなる短編集。容疑者や行方不明者などが飼っていたため引き取り手がいなくなってしまった動物たちの面倒を一時的にみる、というのが建前なんだけど、一筋縄ではいかないものばかり。100羽を超えるジュウシマツ、アパートに残された大小2匹のヘビ、一戸建ての庭を占有する巨大なリクガメ、部屋で放し飼いのフクロウまでご登場。

で、飼育状況や動物の生態から事件の解決にどんどん近づいていく。これがなんだか新しい。

容疑者も捜査官も動物好きなので「この動物を飼うのにこの部屋はおかしい」「三日も放置されていたのにこの状況は不自然」といった推理が成立してしまう。かつて西澤保彦がSF的状況で本格推理を展開した時のような「異世界の中での推理」が動物好きという輪の中で出来上がっちゃてるのだ。

こちらとしては専門知識がないので指をくわえて見てるしかないんだけど、独自の世界の中の独自の推理劇はなかなかどうして楽しい。容疑者の動機まで動物好きフィルターがかかっているので、落ち着く先も予想がつかない。

動物好き捜査官の薄(うすき)巡査のキャラも楽しくてテンポ良く読める。福家警部補に次ぐシリーズとして続編も期待しています。

 

一党独裁の管理国家を舞台に起こる事件をテーマにした、5編からなる短編集。

日本のようで日本でないパラレルワールド的世界観としては、石持作品では『BG、あるいは死せるカイニス』や『人柱はミイラと出会う』がある。本作はその異世界日本の構築+『攪乱者』でみせた政府vsテロの路線の位置付け。

テロ組織幹部の公開処刑の場で繰り広げられる治安警察と反政府組織の頭脳戦「ハンギング・ゲーム」や、小学校卒業と共に進路が決定する制度から派生した卒業生自殺の謎「ドロッビング・ゲーム」は、異世界という箱庭ならではの思考・論理が展開されとてもスリリング。

「この前提ならこう考える」という話運びは相変わらずの上手さ。ちょっとおかしな外枠を作りあげると、石持浅海は生き生きするなぁ。

ただ、続く3編も自衛隊、外国人労働者、表現の自由を取り扱っているものの、異世界の補強と物語の収束に力が向けられた印象。必要な手続きであることは承知の上で、でももっと箱庭で遊びたかったなぁ、というのが正直な感想です。

 

バイバイ、ブラックバード

  • 著者/訳者:伊坂 幸太郎
  • 出版社:双葉社( 2010-06-30 )
  • 単行本:272 ページ
  • Amazonで詳細を見る

主人公・星野一彦はお金の問題もろもろで<あのバス>に乗せられて遠くへ行くことになってしまった。

<あのバス>の行き先については詳細はわからない。監視役の巨体の大女・繭美(イメージはマツコ・デラックス)に聞いても恐ろしい例え話をするばかり。ずけずけと人を傷つける言動を繰返す繭美に、星野一彦はあるお願いをする。恋人に最後の別れを告げたいと。

しかし、星野一彦は五股をかけていたのだった…。
 
 
というあらすじからなる5編+1編の短編集。「繭美と結婚することになった」という嘘を引っさげて、一人一人に別れを告げに行くのだ。

借金+五股だけど星野は悪人というわけではなく、いい人なんだけど色々自覚がなくてこうなっちゃった、という感じ。なので、別れ際にもなんか女性の役に立ちたいと考えてしまう。車を当て逃げされたと聞けば、犯人を探し出したいと繭美に頼んでブーブー言われ、それでも繭美の協力を得て、なんやかんやでカーチェイスをする羽目になってしまう。

星野が一人の女性と関係を断ち切るまでを1編としてるのだけど、別れ話の後に起こる事件や出来事をスマートに回収する様はさすが伊坂幸太郎。繭美のキャラ立ちと、お話の小粋さのコントラストが面白いです。

星野のいい人さと、繭美の無軌道さ、様々なタイプの女性たちと、そこに偶然と伏線を織り混ぜて、恋愛でもミステリーでもない、あまり見たことのない連作短編に仕上がっています。最後の書き下ろしの1編もまた、いいんだよなぁ。
 

 

奥泉光といとうせいこうが北沢タウンホールで定期的に行っている『文芸漫談』の書籍化第二シリーズ。1回に一冊「薄いブンガクの本」を題材に二人がセンターマイクを挟んで語るという形式(イベントではその後奥泉光のフルートといとうせいこうの朗読があるらしい)

前作『文芸漫談』ほど枕は長くなく、途中の脱線も少ない(あと漫談に茶々ばかり入れていた脚注がなくなったのは個人的にうれしい)。カフカ『変身』や夏目漱石『坊ちゃん」、ポー『モルグ街の殺人』など、冒頭からラストにいたるまで粗筋を引用しながら、不条理な展開を笑い、小説技法に唸り、作家の心中を推し量る。未読の人には興味をひくプレゼンテーションになり、既読の人には再確認ができる。

これが「漫談」という形式で成立するのはすごいなぁ。難しいことを人に分かりやすく説明する、というのは頭がよくないとできない。ちなみにタイトルにある「志村、後ろ後ろ!」は主人公の危機に読者は気がついているもののどうしようもできないという、”物語の客観性”を表している比喩。こんな感じで、難しくなりがちな文芸評論が二人の「読み」から「トーク」への昇華によって手に届きやすくなっている。

今回取り上げられてる9冊はどれも薄くてさっと読める本。同じく世界文学を独自の視点とツッコミで解説する伊藤聡『生きる技術は名作に学べ』と比べてみるのも面白いかも。
 

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