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あ行の作家 Archive

乙一『銃とチョコレート』

講談社ミステリーランド第10回配本。少年リンツの住む国では怪盗ゴディバと探偵ロイズの噂でもちきり。大富豪の家だけ狙う怪盗とそれを追う名探偵の様子は新聞でも盛り上がりをみせていた。ある日リンツは父の形見の聖書から一枚の地図を見つける。手書きのその地図の上にはゴディバが盗んだコインの絵が描いてある。もしやここに盗んだお宝が?リンツは憧れのロイズに手紙を送るのだった。

久しぶりに読んだ乙一であったが、やはり子供相手に手綱を緩めるような人ではなかったのだった。ステレオタイプな正義のカタチは全然なく、表も裏もためらうことなく子供に見せつける迷いのなさ。冒険のハラハラも、展開の驚きも、いくつかの伏線も、全て効果的に効いて、大人も子供も一緒に語り合える本だなぁと感心。

世の中の甘い部分も苦い部分も取り込んだ、まさにSweet&bitterなチョコレートであります。

銃とチョコレート
銃とチョコレート
posted with amazlet on 06.08.12
乙一
講談社 (2006/05/31)
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浅暮三文『錆びたブルー』

『石の中の蜘蛛』『針』に続く、”五感シリーズ”の特別編。男は神の目を持っていた。男は一年前に女を殺した。ホームレスとなって逃亡を続ける男の前にもう1人の男が現れた。頭の中で子供の声が言う。殺せと…。新たな殺人。謎の女。目の前には、赤い残像と、錆びたブルー。

男の一人称かと思いきや、視点は空間や時間を自由に飛び、掴みどころのないイメージの渦が続く。現実なのか幻かわからない世界の中で、かろうじて進む物語。男が目にする赤や青が爆発するイメージを、時に濃厚に時にスイングしながら描く様子はまさに作者の真骨頂。

しかし正直このまま終わったらどうしようと不安すら覚えたほど幻想が続くわけなのですが、ところどころに全体像が見えそうな描写があるので、やはり気になって読んでしまう。徐々に晴れてきた霧を、いきなりバッと剥いで、またバサッとかぶせるような、少々雑にも取れる幕引きではあるのですが、この計算をこんなカタチで一冊書ききれるのはこの人・浅暮三文しかいななぁ。見たこともないミステリを読んでしまった、そんな静かな驚愕の中、本は閉じられたのでした。

錆びたブルー
錆びたブルー
posted with amazlet on 06.08.24
浅暮 三文
角川春樹事務所 (2006/04)
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綾辻 行人, 佐々木 倫子『月館の殺人(下)』

忘れもしない、あの上巻のまさかの幕引き(⇒上巻の感想)あれから一年。テツによるテツのためのテツ道ミステリの、『月館の殺人』が完結しましたよー。

サスペンスと仮説のやりとりが多くを占めるので、連載中に読んでる人は本当に完結するのかヤキモキしただろうなぁ。上巻の終わりがあれなもんなので、下巻はどうしてもネタばれに触れてしまいそうなので色々書けないのですが、うーん、やはりテツ分の多さが面白さの多きを担うなぁ。ミステリ的には上巻の終わりのインパクトが一番だったかもしれない。しかし上巻を読むと下巻を読まずにはいられないわけで、これは区切りどころの勝利だなーと思った。

月館の殺人 (下)
月館の殺人 (下)
posted with amazlet on 06.08.01
綾辻 行人 佐々木 倫子
小学館 (2006/07/28)
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伊坂幸太郎『陽気なギャングの日常と襲撃』

人間嘘発見器・演説の達人・体内時計・天才スリの4人組銀行強盗が大活躍の『陽気なギャングが地球を回す』の続編。4人それぞれにスポットをあてた第1章は、刃物男・幻の女・謎の招待券・殴打事件と別々の事件が登場し、2章以降から社長令嬢誘拐事件と奇妙ににからんでいく。

相変わらずの好テンポで安心して楽しめる。第1章は元々独立した4つの短編をリライトしたもので、それぞれの主人公にスポットを当てている。なので、このシリーズの持ち味である「仲間同士のくだらない会話の応酬」を楽しめるのが2章以降(全体のほぼ半分)なってしまうし、それぞれの能力を組み合わせてトラブルを解決するのが面白かったりするので、この辺ちょっと物足りないのが残念かなあ…。

B級エンタの仕上がりを狙ったものの、狙いよりもちょっと低いところに球が当たっちゃったような印象。タイトルからして「日常」なのでライトな展開だけども、一からがっしりプロットを組んだものも読みたいなぁー、と、僕の中でますます期待値が高まる結果になっています。

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伊坂幸太郎『終末のフール』

「あと8年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡する」と発表されて5年後の世界。発表後こそ秩序は乱れ、殺人や略奪が横行したが、最近は小康状態が保たれている。舞台は仙台北部の住宅団地。混乱と終末の狭間で、人々は何を思い、過ごしているのか。

勘当した娘の訪問に心で怯える父親「終末のフール」、3年後に世界が終わるのに子供ができた「太陽のシール」、それでもトレーニングを重ねるキックボクサー「鋼鉄のウール」、屋上に建てたやぐらと家族のこれから「深海のポール」他を含む短編8つからなる短編集。連作になっているので、他の短編に他で出た登場人物があらわれたりして、世界が立体的になっていく。

地球滅亡を描いた小説・物語は多いが、本作の「8年前に地球滅亡がわかって5年後」という設定は独特のテンションを持っている。略奪や自殺が多発したため、物語中では人の死はあっけなく描かれ、混乱の爪あとはそこかしこに書き込まれている。その反面、舞台となっている団地は「安全な地を求めて移動する事をやめた人々」が集まっているので、どこか落ち着いた人が多い。平和でもなく地獄でもない、白でも黒でもないグレーな感じ。これがネガティブさを持ちながらポジティブにもなれる世界を作っている。

終わりが見えてきたからこそ生きることを考える人々を、伊坂幸太郎は独特のユーモアとシリアスを混ぜて描き出す。引用したい文がたくさんあるがやめとこう。一生を生きることは、明日を生きることと等価なんだと感じた。グレーを抱える彼らの姿に没頭する300ページ。世界が終わる前に、この本を。

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