あ行の作家 Archive
蒼井上鷹 『出られない五人』
急逝した小説家を偲ぶ為に、彼ゆかりのバーに集まった5人の男女。バーは廃業ずみなのだけど、管理人に無理言って忍び込んでいる。宴もたけなわのころに見つかる身元不明の死体。バーは翌朝まで鍵がかけられた密室状態。そのうえ彼らにはそれぞれ「出たくない」理由があったので…。
この本格ミステリ的には”いかにも”な設定で、フーダニットでもクローズドサークルでもないというのが、これから読む方への一番の注意点であります。まぁ、ちょっと、えー、って感じでしたが…。
あくまで「偶然が重なってどんどん話が変な方向へ転がっていく」もの狙いの話し運び。章ごとに登場人物視点が変わるので、彼らの”隠し事”が徐々に明らかになっていくようになっている。バーの間取り、ガシャポンなどの小道具もフルに使ってる、なんですが…。
ドタバタ、スラップスティック、というにはどうも「理性」がはっきりしているのである。登場人物もなんとなく理屈っぽい。まさに閉鎖状況で殺人がおきた時の本格ミステリの登場人物の感じというか。ドタバタも本格もどっちも好きで、という思いが逆にどっちつかずを生んでいるような、そんな気がしました。
もうメチャクチャか、ガチガチか、もっと勢いよく振り切れちゃうともっと面白くなるのではと思いました。
祥伝社 (2006/09)
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石持浅海『人柱はミイラに出会う』
「人柱」「お歯黒」「参勤交代」が今の日本でも行われていたら?
『顔のない敵』に続く、石持浅海2つめ短編集の本作は現代の日本が舞台。だけど、大昔の風習が現在版にアレンジされて生きている変な世界。独身女性はお歯黒しに歯医者に行くし、厄年の人は1年間休暇がもらえたりする。
で、この変な世界に本格推理が絡むのですよ。例えば表題作。マンションやビルを建てる際、土地の神様を鎮めるため、現代版人柱である”人柱職人”は工事の基礎部分作られた小さな部屋にこもり、工期が終わるまで数ヶ月~数年間一人で暮らすのである。出てきちゃだめ。で、とある現場で工事が終わり、さぁ出てきてくださいよとドアを開けたら中にいたのは寝袋にくるまれたミイラだったのでさぁ大変。ドアの鍵を持ってる人は限られてるけど、人柱を殺したら土地の神様怒っちゃうし、そもそもこのミイラ本当に人柱職人なの?っていうかなんでわざわざミイラに?
過去の石持作品を見ると、ハイジャック機内や閉ざされたままの密室など、特異な状況をあくまでロジカルに処理するのが特徴。その”特異な状況”があくまで現実の上に乗っかっているので、動機が特殊すぎたりなどしてちょっとそれどうなのかみたいになる事もあった。今回はもうスタートがおかしなことになってるので、その辺ぜんぜん気にならない。
「議会では議員一人ひとり黒衣がついてアシスタントする」なんておかしな設定と、チェスタトンのあれが見事に融合した『黒衣は議場から消える』なんてかなり極上な出来です。後半になるとちょっと息切れしてくるのだけ気になるかな…。
そうそう、パラレルワールドの日本+本格推理といえば、山口雅也『日本殺人事件』『続・日本殺人事件』もめっさ面白いですよ。読み比べてもいいかも。
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大倉崇裕『警官倶楽部』
マニアが過ぎてもはや特使能力がついてきちゃった警察マニア達が、巻き込まれたトラブルを解決させるために東奔西走する大倉崇裕『警官倶楽部』。同じ作者による『七度狐』等の本格路線より『無法地帯』のアクションもの寄りです。
盗聴・鑑識・パトカー・銃器・逮捕術・尾行などなど、様々な警察マニアがそれぞれの技能を駆使するわけで、その幅広さはとても面白い。ただ秘密の倶楽部にしてはだいぶ人数が多くって(10人以上?)薄味になっちゃった印象。困った→あいつを呼ぼう→よかった→困った→別のマニア登場→よかった→困った…の連続でキャラが使い捨て気味なので、それぞれイジったり組合せたりしたらもっと面白いことできそう。盗撮マニアの双子とか。
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有栖川有栖『乱鴉の島』
火村シリーズでは初の孤島モノ。鴉だらけの島を舞台にして、有名作家(≠有栖)を取り巻く奇妙な人々と、二つの死体。
とにかく序盤はハプニングの連続。火村と有栖が島の民宿にバカンスに出かけるところから始まるのだけど、船頭に勘違いで別の島に届けられ、島に1軒しかない人家には11人も人が集まっていて、家主が隠匿した著名作家でビックリして、帰りの船は来なくって、どうにか泊めてもらって、やれやれと思ったら大富豪のIT社長がヘリで登場するのである。もうなにがなにやら。
しかし全体を通すと「孤島モノ」で「クローズドサークル」にしては派手な展開にはならない。2つの殺人事件を結ぶロジックはさすが手馴れたもの(こんな理由で電話線が切られるなんて!)だけど、もうひとつの線である「人々が島に集まっている真の目的」の不可解さが静かに底辺を流れていて、話に対して機敏な動きをさせないのである。謎が雰囲気に飲まれている、というか。
孤島モノとしては地味だけど孤島でしかできない、ありふれた、しかし奇妙なミステリ。
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浅暮三文『ポケットは犯罪のために 武蔵野クライムストーリー』
6つの短編+書き下ろしの幕間に、最後に解説を付け加え、奇妙な味の連作に仕上がっている本作。武蔵野を舞台に、墓地に人魂が浮かび、RCカーが暴走し、密室から遺言状が消え、学生は薔薇を抱え、強盗は古本に宝石を隠し、白シャツの男がいつのまにか赤シャツになっている。
日常の謎のようで非日常な事件の数々は、まさにミステリーとファンタジーを行ったり来たりする作者の立ち位置そのままの浮遊感。「メフィスト」に掲載された短編を後付けでつなぎ合わせているのだけど、短編同士に伏線があるわけじゃないので密接度はそんなに濃くはない。むしろ短編をもう一つ書き下ろしてバラバラにして幕間に紛れ込ませた、という感じ。全編男の一人語りで構成された、こちら幕間の試みがこの本でやりたかったことかもなぁ。
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やってる人 : INO