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あ行の作家 Archive

伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』

ゴールデンスランバー
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書下ろし1000枚の本作はまさに「ベスト・オブ・伊坂幸太郎」といったおもむきですよ。政治の闇は『魔王』、親子の絆は『重力ピエロ 』、学生時代の友情が『砂漠』で、殺し屋といえば『グラスホッパー』。これら今まで発表した作品のエッセンスを1つに注ぎ込んだのが、この『ゴールデンスランバー』、と言うぐらいの伊坂全部盛りです。

仙台での凱旋パレード中、突如爆発が起こり、新首相が死亡した。同じ頃、元宅配ドライバーの青柳は、旧友に「大きな謀略に巻き込まれているから逃げろ」と促される。折しも現れた警官は、あっさりと拳銃を発砲した。どうやら、首相暗殺犯の濡れ衣を着せられているようだ。この巨大な陰謀から、果たして逃げ切ることはできるのか? 

逃亡アクションものとしてはまだアイデアを盛り込める余地がありそうで、行き当たりばったりな展開もありますが、この作品の中心は繰り返し使われる「信頼と習慣」という言葉にあるような気がします。普通の人が逃げなければいけない目になったとき、何をどう信じたらよいのか?見えない絆が生む奇跡に心やられます。

アビイ・ロードリンクも健在で、見落としてる伏線もまだあるような気がするなぁ。読み終わった方は第2章と第3章をもう一度読むことをオススメします。伊坂幸太郎の入門としても、ファンサービスとしても、十二分に耐えうる一冊。タイトルの元になった、ビートルズが聞きたくなってしかたがない。

愛川晶『道具屋殺人事件 ──神田紅梅亭寄席物帳』

道具屋殺人事件──神田紅梅亭寄席物帳  [ミステリー・リーグ] (ミステリー・リーグ)
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まさに落語ミステリの”真打ち登場”。帯の文句に偽りなし。

高座の最中に血染めのナイフがあらわれる、後輩は殺人の疑いをかけられる、妻の知り合いは詐欺容疑……。次から次へと起こる騒動に、二つ目、寿笑亭福の助が巻き込まれながらも大活躍! 落語を演じて謎を解く、一挙両得の本格落語ミステリー!

これまで落語ミステリと言えば大倉崇浩『七度狐』や田中啓文『笑酔亭梅寿謎解噺』など数あれど、本作が新しいのは、落語を演じることイコール事件の解決になること。

3編ともクライマックスは舞台にあがる福の助の落語。福の助が従来の古典落語に新しい演出を加えるのだけど、この演出そのものが謎の真相を示唆することになるのである。この「新しい演出」=「謎解き」の絵がすばらしい。

落語のアイデアを思いつくだけでなく、それを事件と結びつけるプロットを作るなんてたいそう難しかろうに、3編ともクオリティが落ちないのもスゴイ。

粋な登場人物や名人のエピソードなど、作者の落語に対する愛もひしひしと伝わる筆致。しゃべりの果てにある美しき一石二鳥。また続編が楽しみなシリーズが一つ増えました。
 
 

ハナシをノベル!! 花見の巻

なんだか落語が聞きたいなぁと思ってたら、作家9名が新作落語を書き下ろした『ハナシをノベル!! 花見の巻』がつい最近出たらしく、すごい気になる。実演CD付きですって。我孫子武丸、浅暮三文、田中啓文、牧野修などなど。

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有栖川有栖『女王国の城』

女王国の城 (創元クライム・クラブ)
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学生アリスシリーズ最新刊は実に15年ぶり!『双頭の悪魔』の頃に生まれた子供が中三になってる算段ですよ。二段組で500ページ超えの大ボリュームの舞台は、新興宗教の本拠地である町と「城」。

前作までは火山の噴火や悪天候による「天災」によるクローズドサークルだったけど、本作は言わば「人災」によるクローズドサークル。行方をくらました江神二郎を捜し求めてEMCの面々がやってきたのは「神倉」という土地。そこは新興宗教の本拠地であり、町全体が教団の配下にあった。町にそびえる「城」で江神との再会を果たした後、城内で殺人事件が発生。EMCの面々は教団側の圧力によって城からの出入りを阻止される。

城からバイクで脱出なんてアクションもあれど、本格ミステリとしては首切りや不可能犯罪なんて派手な展開はなし。「読者への挑戦」もあれど、なんかものすごい弱気。なんだか大丈夫かしら、と思えど、その心配は杞憂。散りばめられた伏線を拾い、端正なフーダニットが幕をあけるのだ。

15年という期間が否応にも期待値をあげるわけですが、そこで奇をてらわずに丁寧な仕上がりにしているのはさすがの貫禄といったところ。結構なボリュームを読んでなお、細かい穴を埋める作業を見ると、期待に応える本格ミステリを作るのがいかに骨の折れることか実感しますなぁ。頭の下がる思いです。

教団が警察を呼ばない理由も前代未聞。本格ミステリの一つの至宝として、語られる作品になりうるのではないでしょうか。

それにしても次作はいつになるんだろう。『月光ゲーム』→(6ヶ月)→『孤島パズル』→(2年7ヶ月)→『双頭の悪魔』→(15年7ヶ月)→『女王国の城』である。6ヶ月の5倍が大体2年7ヶ月(31ヶ月)で、31ヶ月の6倍が大体15年7ヶ月(187ヶ月)なので、次は187ヶ月の7倍の1309ヶ月になるということは、えー、109年と1ヶ月後だから、

2116年10月にお会いしましょう!

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石持浅海『Rのつく月には気をつけよう』

Rのつく月には気をつけよう
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食べ物と色恋を絡めた、いわゆる「日常の謎」の連作短編集。今年の石持浅海は『人柱はミイラに出会う』 『心臓と左手 座間味くんの推理』と全て短編集なんだけど、全て趣向が違うのがおもしろい。

舞台は全てマンションの一室。学生時代からの飲み仲間三人が企画した飲み会を行うのだけれど、毎回ゲストを一人連れてくる。酒と肴も毎回異なり、牡蠣や銀杏、チョコレートフォンデュなど。飲みが進むうちに、ゲストがポツリとそのときの肴についてつぶやいた一言が謎解きのスタートの合図になる。

毎回食べ物と色恋の趣向が変わるのでなかなかに凝っていておもしろい。だけれども、理詰めの展開を得意とする作者だけに、その論理の刃が日常レベルに降りてきてしまうと、そこまで普段考えて行動するかしら…とどうも行き過ぎた感じになってしまう。

ただ、色恋のとなると人は無駄にいろんなことを考えてしまうわけで(あの時のあの発言はなにか意図があって…とか)、その普段使いじゃない思考をいわば「狂人の論理」として扱うとこんな作品になるのかなぁとも思います。

油断してると最後に大ネタがあったりして、意外にサービス精神旺盛な本なのではないか。装丁もかわいいしねぇ。

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石持浅海『心臓と左手 座間味くんの推理』

心臓と左手  座間味くんの推理 (カッパ・ノベルス)
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傑作『月の扉』で活躍した名も無き探偵役”座間味くん”リターンズ。飲み屋の個室で飲み食いしながら、大迫警視から聞いた解決済み事件の話をいともたやすくひっくり返す。安楽椅子探偵ものの短編集。これはすごい。かなりの高品質ですよ本格ファンの皆さん。

一つ一つの分量はとても短く、事件のあらまし→別の解釈という流れがシームレスに続く。その短さの中で180度近いひっくり返しを無理なく何度もこなす力量はさすが。綺麗な装丁とも相まって、とてもシャープな仕上がりの本になってます。

また、事件を起こすのがテロリストや過激派、新興宗教に環境保護団体という、この手の作品ではなかなか見られない相手で、その分事件やロジックに新味が出ているのもプラスに作用してるのではないかなぁ。「貧者の軍隊」での密室ができた理由、「心臓と左手」での犯人の行動原理、「水際で防ぐ」のトンでもない返し、どれも印象深い。

しかし困ったのが最後に収められている「再会」。それまでと趣向が変わり『月の扉』の後日談なんですが…ただの憶測でその人にそんなことを言ってはいけないだろうという思いがどうしてもぬぐえず。”座間味くん”のクールな印象が冷血漢に見えた一編で、なんかもやもやとした読後感になってしまった。

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