Tポイントカードが憎い

吉野家でTポイントが使えるようになっていた。吉野家でも「Tポイントカードはお持ちですか?」と聞かれるようになったのだ。

あの吉野家で現金以外のお支払いが可能になるとは、と感慨深い。もう10年近く前になるけど、会社帰りで吉野家で牛丼を食べた後、財布の中の現金がいま食べた牛丼未満だったことがある。Suicaもクレジットカードもおサイフケータイもあったから、現金が少なくなっても気が付かなかったのだ。財布の中に電子的に支払える手段が多々あるのに、吉野家では全部NG。仕方が無いので少し先のコンビニまで走ってお金を下ろしに行った。逃げない証明のために免許証を吉野家にあずけて。息を切らして店に戻ったら、僕の免許証は厨房の壁にズバーン!と貼られていて、でも店員がさっきと入れ替わっていて、僕は免許証と顔を交互に指差しながら「?」な顔をしている店員に説明をしなければならなかった。以来、吉野家に入るときはいつも緊張する。手に取れない電子マネーなど存在しないに等しい、信じられるのは目の前のカネ、ただそれだけ。現金主義のハードボイルド吉野家を今でも恐れていた。

で、Tカードである。よくネットで「ファミマでいつもTポイントカードはお持ちですか?って聞かれてウザい」などの呪いの声を見かける。なんとか見た目だけでTポイントカードを持っていないことを伝えられないか、という大喜利状態のブレストも目にする。確かに毎回カードを持っているかどうか聞かれ、毎回否定するのは大変だ。でもそれ以上に気になることがあるのだ。

Tポイントカードの有無を聞かれ、「持ってません」と答えると、「失礼しました」と店員さんに謝られてしまうのだ。

いいんだ、顔をあげてくれていいんだ。確かに毎回聞かれ否定する客は大変かもしれない。でもあなたが謝らなくていいんだ。店によっては「申し訳ありませんでした」まで誤り度数がアップするところまである。そこまでじゃないんだ。悪いのはあなたじゃないんだ。どうか笑ってほしい。カードを持っていない僕でもたぶんない。このカードが、このカードが悪いんだ……

罪がない人を謝らせてしまうTポイントカードが憎い。謝らせてしまう構造になっているのが憎い。どうしたらいいんだ。じゃぁ客に「持っていません」と言われた店員さんは何て返したらいいんだ。無視は気まずい。「ですよね」はだめだ。年齢確認のボタンみたいに「持ってる」「持ってない」を押すのも面倒だ。どうしたらいいんだ。見た目だけでカードを持っていないことをわかってもらうしかないのか。話はやっぱり大喜利状態のブレストに戻ってしまう。