1枚で2つの世界。「カラーユニバーサルデザイン」の路線図(メトロ・都営・横浜市営地下鉄)

路線図が好きすぎて、ついにデイリーポータルZに載ってしまいました。

路線図をただながめて「いいねぇー」って言うだけのオフ会 – デイリーポータルZ:@nifty

前回記事路線図には川とか緑とかキリンもあるの最後で告知してたオフ会であります。ライター西村さんに参加&取材していただきました。記事では僕が真顔で解説してますが、西村さんのうんちくも最高だったんですよ。最後に北朝鮮の地下鉄路線図見たりしたんですよ(「統一」とか「戦友」って駅がある!)

で、いろいろ語り足りないなぁ、と思って。記事中にでも出ていた、メトロの「カラーユニバーサルデザイン」の路線図。色覚障がいの方向けに、券売機の横にひっそり貼ってある路線図です。

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アップにするとこうなってる。微妙にシマシマがあったり、路線が黒で縁取られて、交差するときは白抜きになってる。

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実はこのタイプの路線図、都営地下鉄にもあるんです。こんな感じになります。

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都営はメトロほど色数がないのだけど、路線名のところを見ると「マゼンダ」や「ローズ」というように色名が書いてある。

最初、なんの知識もなくて、「なんか違う色のやつが貼ってある」くらいに思ってたんです。そんでちゃんと調べたんですよ。

丸ノ内線は茶色、都営新宿線は黄色に見える

一般的に「色盲」「色弱」と呼ばれる色覚障がい。その数は全世界で2億人。日本全体では300万人以上もいるそう。日本人男性では20人に1人の割合。学校の1クラスに1人はいる計算になる。

色で指示をされることって多い。「申請は緑の用紙です」「ピンクの錠剤を飲んでください」「赤いランプは充電中です」……。色覚の違いで取り返しがつかない誤りをおこす可能性もある。この問題をデザインで解決する取り組みが「カラーユニバーサルデザイン(以下CUD)」。

色で示すといえば、路線図だって路線の違いを色で表現する。路線数が多いほど色弱者には区別が難しくなる。福島県が作成したカラーユニバーサルデザインガイドブックから引用すると、こんな感じに見えるそう。

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どれが銀座線(黄色)かわからない。真っ赤な丸ノ内線も茶色になってしまう。「赤いやつに乗ってください」と言われてもわからない。

じゃぁ専用の路線図を別に作ればいいじゃん、という話になりそうだけど、CUDは「色弱者用のデザインではない」のが特徴。1つのデザインで、色覚者にも色弱者にも伝えるのが目的。デザインの力で、どんな人にも見えるようにしようじゃないの、というわけ。

デザインって、アイデアひとつで複数の困難を一気に解決できる力を持っている。かっこいいなぁ、といつも思う。

CUDを取り入れた横浜市営地下鉄の路線図

とはいえ、既に路線のカラーが決められちゃった状態で、じゃぁCUD対応しましょうと言われても難しい。東京メトロや都営地下鉄も、後付けの対応で別に路線図を作っているんだと思う。

でも、最初からバリアフリーを目的にして、CUDを路線図に取り入れた鉄道会社もある。横浜市営地下鉄。

2008年に開通した横浜市営地下鉄グリーンラインでは、駅構内サインにCUDを取り入れた。路線図や運賃表、トイレの案内などにCUDが活かされている。路線図はこうなっている。

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路線図に載っているのはJR・私鉄を含めた21路線。一般的な路線図は路線ごとに色を変える。でも、横浜市営地下鉄の路線図では鉄道会社ごとに色を統一している。その結果、路線の色数は10色に減った。JRは緑の縞模様、京急はピンクの二重線など、線種も変えている。

横浜付近をアップにしてみると……。

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路線が交差するポイントには白い境界線を描いている。駅名が路線にかかる場合は、その部分だけフォントに縁取をつけている。色弱者に細かい配慮がなされ、かつ一般の色覚者にも違和感がない。CUDが施されていることすら気がつかない人も多いと思う。

横浜市営地下鉄はこの取り組みで、内閣府が主催する「平成20年度バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰」において「内閣府特命担当大臣表彰優良賞」を受賞している。国のお墨付きである。
横浜市交通局 インフォメーション 横浜市交通局が「内閣府特命担当大臣表彰優良賞」を受賞!

色や線がごちゃごちゃしているのが路線図の魅力でもあるけど、CUDの配慮ももっと広がればいいな、と思う。CUDの路線図は1枚で2つの世界を映し出す。世界は見たままのものとは限らないのである。