『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』

もう、このタイトルがすごい。なにがなにやらだけど、ホントにこういうことが起こる話なんだからしょうがない。

銀行強盗にあって妻が縮んでしまうんですよ。身長が。

まずこの銀行強盗が何をやったかのかをご説明しますよ。

ある日、カナダの銀行に紫色の帽子をかぶった強盗がやってくる。この強盗、金を要求するのかと思ったらそうではない。

「あなたがたにはそれぞれひとつ、なにかを差し出していただきたい。今お持ちのものの中で、もっとも思い入れのあるものを」

お金を差し出しても「小さく破って捨ててしまいなさい」という。その場にいた13人は首をかしげながら、腕時計や電卓、封筒などを差し出す。強盗は満足気にうなずき、去り際にこう言い残す。

「私は、あなたがたの魂の51%を手に、ここを立ち去ってゆきます。そのせいであなたがたの人生には、一風おかしな、不可思議なできごとが起こることになるでしょう。ですがなにより重要なのは―その51%をご自身で回復させねばならぬということ。さもなければあなたがたは、命を落とすことにおなりだ」

次の日。

13人の身にさまざまな異変が起こり始める。ある者は身長が日に日に縮んでいく。ある者は心臓が爆弾になる。他にも、母親が96人に分裂したり、オフィスが水の底に沈んだり、タトゥーに彫ったライオンが現実に飛び出して追ってきたり……。

全然現実的じゃない。現実的じゃないんだけど、周りの人はそれを受け入れてしまう。こんなに一大事なのに、あらあらしょうがないわね、困ったわね、くらいの感じになってる。

そしてお話はとても短い。全部で130ページ弱。それぞれのエピソードにかける時間がとても短い。さらっと読み終えてしまうのだけど、一つ一つのエピソードや登場人物がとても印象に残っている。

例えば、キャンディーになってしまった女性。シャワーを浴びていて、自分がキャンディーになったことに気がつく。髪の先からつま先まで砂糖菓子。しょうがないので頭にスカーフを巻いてサングラスをする。会社に病欠の電話をする。指をもいで子供たちにあげる。夜中に帰ってきた夫がキスをして、「君を食べちゃいたいよ」と二人で二階に行き、食べられてしまう。

ページ数にして3~4ページ。こんなシーンが次々出てくる。人物-奇妙なこと-エピソードがとても濃く結びついていて、一枚の写真のようなインパクトを残すのだ。短い=情報が少ないからこそ、読者の想像力がエピソードを色濃く補完する。

元に戻るにはどうするのか?魂の残り51%を回復するにはどうするのか?明確な答えはないけども、ところどころにヒントはある。深読みすればどこまでも深みに行ける本だと思う。なにか警句がありそうで、それでいて、ただおかしなだけのような、そんな奇妙な物語。

短さもあいまって、2周、3周とできる本だと思います。黄色いビビッドな装丁はプレゼントにもいいかも。そしてこれは読書会向きだなぁ。いろんな人の「読み」を聞いてみたい。