ネットが普及して、わからないことは検索すれば調べられるようになった。欲しい本はAmazonから届けてもらえるようになった。
でも著者の嶋さんは、毎日本屋に行く。目的がなくても、欲しい本がなくても、たった5分でも。
それはなぜか。本屋は「無駄」で「想定外」な情報を得られる場所だから、と嶋さんは言う。
人間の欲望は検索することができない
嶋さんは「博報堂ケトル」の社長。広告を業としている。常に新しい企画やアイデアを必要とする職業で、みんなが「欲しいな」と思うものを提案しないといけない。
その上で、嶋さんのキーフレーズは、
「人間はすべての欲望を言語化できていない」
ということ。
プレゼントなにが欲しい?と突然聞かれても、う〜んと考えてしまう経験ってある。商品を見て「こういうの欲しかった!」と思うことってある。具体的な「欲しいモノ」 はあったとしても、思ってもなかった「欲しかったモノ」というのもあったりする。
その「欲しかったモノ」は、思ってもないモノなので、言葉にできない。言葉にできないモノは、検索することができない。
つまり、人間の欲望は検索することができないのだ。
そこで嶋さんは、欲望を探しに出かける。本屋の平積み棚に。
本屋にもAKBにも「センター」がある
本屋には多種多様な本が揃っている。目的無しに入っても、思わぬ本を見つけて買ってしまったり、複数の情報を掛け合わせて新しいアイデアが生まれる。
検索が知りたい情報をストレートに調べるのとは逆で、本屋では「無駄」で「偶然」で「想定外」な情報に会えるのだ。
たくさん本屋があるなら図書館でもいいじゃない?と思うけど、本屋にこだわる理由は「毎日アップデートされること」
新刊書が入荷する、売れて歯抜けになった書棚を管理する、売れてる本・売りたい本を平積みにする……本屋に並ぶ本は毎日その姿を変える。
AKBが例えに出されていて「センターが変わると全体の印象が変わる」そうだ。確かに。
一見無駄な情報をストックしておいて、後で掛け合わせる手法は外山滋比古『思考の整理学』にも出てきた気がする。情報カードを一冊の本に置き換えちゃうんだなぁ。しかもそのカード(本)はすでに無数にあって、毎日アップデートされる。こりゃ発想の種に使わない手はないですよね。
「書棚は世界でなければならない」
嶋さんは下北沢に「B&B」という書店を開いている。ビール販売やトークイベントも行ってる本屋さん。
最終章に「B&B」共同経営者の内沼さんとの対談がある。理想の書店像だけじゃなくて、実際に経営してみての話もあるのが興味深い。並べる本の選び方、文脈のある書棚の作り方、本より利益率がいいビール……。
見出しの「書棚は世界でなければならない」は対談で出てきた内沼さんの言葉。狭い空間に、生から死まで、世界の端から端までが詰まっている。書棚を巡ることは一つの旅になる。
本が星座を作り、書棚が宇宙になる。かっこいいなぁ。巻末には「一度は行きたい名書店」のリストもある。この紹介文もまた気になる本屋ばかり。
ネット書店が出てきたからこそ、リアル書店に出来ることがあると思わせてくれる一冊。さぁ書を捨てず、街に出よう!