日本の自殺率と「戦う」~アイルランド人監督の映画『自殺者1万人を救う戦い』

この10年間、日本の自殺者は毎年3万人にのぼっている。

その数字知ってる、という人もいるでしょう。

ちょっと掛け算してみてください。10年間 × 3万人。

ちなみに、アイスランドの人口が、30万人です。

『Saving 10,000 – 自殺者1万人を救う戦い』は、日本の高い自殺率に疑問を持った、アイルランド人が制作したドキュメンタリー映画。50分に渡る映像が、Youtubeで無償公開された。

この映画は、専門家、医師、弁護士、精神科医、一般人に至るまで、約100人に取材し、インタビューを交えて構成されている。

その端々に出てくるデータに驚きが隠せない。

  • 日本の自殺率は、アメリカの2倍、タイの3倍、ギリシャの9倍、フィリピンの12倍。
  • 自殺者3万人のうち、1万人が過去になんらかのメンタルヘルスを受けている。
  • 60歳以上の高齢者の自殺が、全体の3分の1を占める。
  • 救急救命センターに運ばれる患者のうち、全体の10%~20%が自殺未遂者
  • 電車に飛び込み自殺をした人のケース。遺族に請求されたのは600万円。これは遺体の処理の費用のみであり、運休に伴う鉄道会社の損害は7000万円になる
  • 自殺をしても生命保険がおりる。加入後1年間は「適用除外期間」としていたが、13ヶ月目に自殺者が多発。生命保険会社が取った対策は「適用除外期間を2年間に伸ばす」

これはほんの一例だ。思わず後ろを振り返ってしまうような、知らなかった数字だ。

これだけのことを知るだけでも、この映画を観る価値がある。

自殺に至る原因はわかっている

自殺に至る原因が、様々な職業の人から多く語られる。異常なまでの責任感の強さ、再就職の難しさ、自殺報道の多さ、老後の孤独…。

その原因は大きく2つに分けられると思う。

一つは、「生きる理由」が段々無くなっていくこと。もう一つは、自殺への誘惑が多いこと。

無くなっていく「生きる理由」

再就職が難しく、一度道を踏み外すと戻れない。定年退職後、なにもやることがなくなってしまう。大人になっても、いいことなんて無いと感じる。

このまま続けていても、どんどん悪くなるとしか思えなくなる。全てに悲観的になる。いいことなんて何も無い。本当は無いはずの袋小路に閉じ込められてしまう。このまま消えても何も問題ない、それどころか、状況が好転すると思い始める。

自殺について情報が多すぎる

特攻隊や作家の末路から、美化される自殺。日々報道される死のニュース。自殺してもおりる保険金。100万部売れた自殺マニュアル本。

自殺という手段があるよ、と、囁かれる声。それはやがて、頭の中でガンガン鳴り響く声になる。具体的にイメージできるようにまでなる。自殺の方法、自分の葬式、あいつら悲しむだろうな…。

暗くなる生きる道、明るくなる自殺の道

生きる道が暗くなっていって、自殺の道が明るくなっていく。

だったら、生きる道を明るくして、自殺の道を暗くすればいい。人生のリトライを可能にし、自殺にメリットをなくせばいい。それでいいはずなんだ。

対策が打てるはずなんだ

原因がわかっているんだから、対策が打てるはずなのだ。

監督のレネさんも、そのことに憤る。自殺未遂で運ばれてきた患者を、治療してそのまま帰す病院。”心霊スポット”周りに群がるお金儲け。老人を孤独にしてしまうコミュニティ。1人あたり3~4分しか診察しない精神科医…。

具体的なデータを調べ、具体的な問題点を挙げ、具体的な対策を提案する。

50分の映画で、それも外国人の監督が、ここまで語れるというのに、日本人は「タブー」とみなして口を閉ざしてしまう。

この映画が無償で公開されたのは「日本における自殺への認知度向上」が急務と考えたからとのこと。

口を開くこと、耳を傾けること。まずはそこから始まるんだ。

東尋坊にて

映画のクライマックスでは、レネさんが自殺の名所・東尋坊に訪れる。

東尋坊には小さなお餅屋さんがある。経営しているのは警察OBの男性。現役時代、東尋坊の自殺遺体をいくつも見てきた。その度に、なんで止める人がいないんだ?と思った。柵を作るのも「観光地だからできない」という。

引退してから、自費で店を建て、有志を募ってパトロールし、それらしき人に声をかけている。

それらしき人は、日が暮れるまで崖の手前で座っているという。

声をかけられるのを待っているのだ。

お餅屋さんは言う。

1970年代、交通事故死亡者は16000人にのぼり、「交通戦争」とまで言われた。政府や警察が対策を取り、現在の交通事故死亡者は5000人を切った。

しかし自殺者の数は、過去12年間ずっと3万人のままだ、と。

誰も死にたくないんですって。
助けを待ってるんですって。
なんでそこに手を差し伸べないか?
国民の命ってのは国の財産でしょ?宝物でしょ?
みんな助けてくれって言ってるんでしょ?
なんでそこに手を差し伸べないの?
わかっててあっち向いてるって、そりゃ犯罪です。
保護責任者遺棄罪そのものなんです。

そんなもん、犯罪ですよ。殺人罪と同じなんですよ。
もう答えでてます。何をしたらいいかってわかってます。
しかしまた、しようとしない。
私は許せないと思う。

さいごに

この記事を書くこと自体、僕のエゴかもしれません。

目を背けていたから、後ろめたいから、保護観察遺棄罪になりたくないから、書いているのかもしれません。

でもやっぱり、少しでも多くの人に知ってほしいと思ったんです。

あなたの50分を、この映画にください。

貴重な時間だとは思います。

その貴重な50分が、回り回って、80年ある命を救うかもしれないんです。

※公式サイト:Saving 10,000 | Winning a War on Suicide in Japan

2件のコメント

  1. 私の上司の言葉をひとつ。
    「会社は守ってはくれない、結局自分の身は自分で
    守るようにするしかないぞ。なのに会社のために死ぬなんて
    馬鹿げてるし、後になって振り返れば小さいことで悩んでたんだって思えるぞ。
    俺だって死のうとしたことはあるけど、やらなくて良かったと思ってる。
    『自分にこんなことさせる会社が悪い』って開き直れ。
    何事も早めに早めに相談しろ、逃げ道も用意しておけ。」

    開き直って今は割と楽に(達観しつつ)仕事して
    います。開き直るって、大事ですよ。

  2. そうなんですよね。「逃げる」ことがいけないこと、という価値観があるから、逃げられない、と追い詰められてしまうんですよね。
    本当、開き直るって大事です。

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