アンパンマンにモザイク!?『イラン人は面白すぎる!』

イスラム教には「ラマダン」という断食の期間がある。

ラマダンの間は、夜明けから日暮れまで飲食が禁止。80年代のホメイニ政権下では特に厳しく、テレビのグルメ番組も禁止になってしまった。

アニメも例外ではなく、当時イランで放送されていた「アンパンマン」は、なんとアンパンマンの顔にモザイクがかけられてしまった。

ちなみにバイキンマンは食べ物じゃないので顔出しOK。モザイク顔がパンチを繰り出すという、どっちが悪者だかさっぱりわからないことになってしまったという。

こんな「イランすべらない話」が満載の『イラン人は面白すぎる!』、書いたのはお笑いコンビ「デスペラード」のイラン人芸人サラミ。

首都テヘランで幼少期を過ごし、10歳で来日したサラミさん。デスペラードではボケ担当だけど、イランに対しての「ツッコミ」絶妙でとてもおかしい。こんなエピソードとかある。

・イラン人は唯一新・アラーを信仰しているが、あまりに頼りにしてるため、遅刻の言い訳も喧嘩の原因もプロポーズも「アラーの導き」のせいにしてしまう。

・イランのヤンキーは断食の期間中、隠れてケチャップを吸う。

・巡礼の期間はメッカに300万人が集まる。神殿に300万人が殺到して毎年200人くらい圧死する。また、石柱に石を投げる行事では毎年1000人くらいが準備運動不足のため脱臼する。

・イスラムの女性はチャドルという黒い布を全身にまとう。そのため、母親を取り違えた迷子が後を絶たない。

・イスラム教は男女が一緒にいてはいけない。なので出会いの機会がない。そこで、ある男がネットで結婚相手を募集したところ、顔写真入りのメールが殺到!大成功かと思ったら、顔写真はみんなチャドルをかぶってて全然わからなかった。

こんな調子で次々披露されるイランエピソード。誰かに話したくてたまらない!

イスラム教は飲食や恋愛などに多くのタブーがある。そこを「テキトー」に切り抜けようとしてるイラン人の姿。タブーとお笑いは相性が良いわけで、面白くならないわけがないのだった。

ふつうのイラン、アラブのイラン

そんなすべらない話ばかりではなく、むしろすべらない話を入り口に、中東の事情についても分かりやすく説明してくれる。

イスラム教スンニ派とシーア派の違い、実は他のアラブと仲が良くないイラン、イラン・イラク戦争、アメリカ、テロ、アラブの春…。

激動の中東情勢に揺れながら、「イラン=危険なテロリスト国家」とイメージされるのが悲しいサラミ。

日本にいるとイスラム方面はどうしても危険なイメージがつきまとう。でもちゃんと知ってるわけじゃない。前説(はじめに)でサラミさんは言う。

日本のニュースで報じられるイスラム教国、つまりイランを含めた中東・アラブ諸国の情報は、内戦、デモ、ヒゲを生やしたコワモテのオッサンの演説など、よい要素が何ひとつない。そんなメディアが流す奇怪な部分だけが膨張されるばかりで、ふつうの一般国民がどんな生活を送っているか、正しい知識を持っている人は少ないだろう。理解なき嫌悪は、すなわち差別である。

一般の人が暮らす「ふつうのイラン」を知り、揺れる「アラブのイラン」を知るために、最適な一冊だと思います。