【本】『はい、泳げません』溺れる者はファラオもつかむ

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著者の高橋さんは泳げない。

泳げないというか、水が怖い。コップの水は平気だけど、海や川やプールが怖い。水がずっとゆらゆらしてる。見てない時でもゆらゆらしてると思うと不気味すぎる。生き物なんじゃないか。そんなものに飛び込むなんて、命知らずがやることだ。

でも冒頭、高橋さんは横浜国際プール、メインアリーナ(50m)のほぼ中央に立っている。

この本は、水が怖い高橋さんが40歳を越えて「泳げるようになりたい」とプールに通い出した記録である。記録なんだけど、笑いが止まらない。お腹が痛くなるほど笑ってしまう記録なのだった。

高橋さんの本業はノンフィクション作家。『はい、泳げません』では自分自身を題材に「泳ぎ」と「泳げるひと」を描く。

とはいえ、水に対して後ろ向きなのがもう可笑しくてしかたない。プールの水深が2.2m知り「なぜ、そういうことをするんですか」と監視員を困惑させる。『コースロープにもたれかからないで』との注意書きに、命綱を使うなということか…と震える。頑張って水に潜ると無音すぎて自分と向き合うしかなくなるけど、自分と向き合うのも怖い。

後ろ向きすぎて、泳げる人に対して偏見まで持っている。泳げる人は「泳げないんですよ〜」なんて言いつつ25mくらい泳ぐ。プールでも黙って抜いていく。人間的に冷たいんじゃないか。心なしか目つきも悪い。つり上がってる気がする。ゴーグルのせいかもしれないけど。

ひとりで悶々としても泳げるようにならないので、初心者向けのスイミングレッスンに通うことにする。このレッスンのコーチがまたいいキャラで、高橋さんを混迷に陥れる。

考えないと泳げない。考えすぎても泳げない

高橋さんは考えすぎてしまう。常に選択の中にいる。右手でかくか左手でかくか?息が苦しいけど我慢するか息継ぎするか?思わず立っちゃったけどまた水に潜るか?「てへへ」と振り返るか?

コーチは「考えないでください」と言う。「リラックスすればいいんですね」と聞けば「リラックスして、と言われてリラックスする人はいません」ではどうすれば…「それも考えないことです」………。

この調子で高橋さんは困惑しながらも、少しずつ少しずつ泳ぎを覚えていく。あっできた!と嬉しくなって立ち上がり、コーチに「立たない!」と叱られる。

章の合間にコーチのつぶやきが入ってるのもいい感じ。レッスンの初回、泳げますか?の問いに高橋さんが「あ、あ、泳げる、かなぁ」と見栄をはったことをバラしてたりする。

リラックスのくだりもそうなんだけど、「泳ぎ」を言葉で伝えるのってすごく難しい。水に身を任せつつ水をコントロールしないといけない。言葉だけだとどうしても矛盾に思えてしまう。いかに水泳が「考えるな、感じろ」の世界なのかが、高橋さんのパニックを通じてわかるのだ。

まさに水のようにゆらゆらとして不確かな「泳ぎ」の世界。高橋さんは克服することができたのか。それともタイトルのまま「はい、泳げません」なのか…。結末はぜひ本書でお確かめください。

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