【本】『太陽黒点』絶望が船を沈める

未読の名作を読むBack to Basic企画。今回は山田風太郎『太陽黒点』です。

本は厚くないけど内容が重い。でも面白い。重面白い。

さっそくご紹介…といきたいのですが、このミステリ、『東西ミステリーベスト100』などからは「予備知識なしで読むべし」とのおふれ付き。廣済堂文庫版では裏表紙の<あらすじ>で最後までうっかりネタバレされているほど。

なので、『太陽黒点』の肝である「絶望」について思うことを書いてみる。

『太陽黒点』の舞台は敗戦後しばらく経った日本。戦争を実体験した「戦中派」と、戦争中は幼少期だった「戦後派」がおり、国が成長すると共に貧富の差が大きくなってきた時代。

「戦後派」の鏑木明は、アルバイトをしながら大学に通う苦学生。ある日、仕事で裕福な屋敷を訪れ、ちょうど開かれていたBBQパーティーに飛び入り参加することになる。見た目はイケメンなので、令嬢からデートに誘われる明。

それまでは貧富の差など意識しなかった明だけど、令嬢に弄ばれるうちにどんどん惨めな気持ちになっていく。この先一生働いても得られない富を、こいつらは何もしないうちから持っている。自分の人生に望みなどないのではないか。もうダメなんじゃないか。

付き合っていた彼女とも険悪になり、仕事場からは借金をし…。

自分を絶望に閉じ込めるのは自分

明と同じように、この話には人生に絶望する人たちが出てくる。小さな幸せを大事にして明るく過ごしていたのに、ジワジワと視界が暗くなって、明るかった未来を消灯してしまう。

読んでいて気づかされるのは、人生に絶望した彼らは、様々な要因はあれど、自分で絶望を選んでいること。

本人は凹んでいるのに、話を聞いた他人は「そんなことで?」と反応する時がある。凹んでいる人は視野が狭くなっているのだ。他人には選択肢が無限にあるように見えるのに、本人は二択しかないと思いこんでいる。

たぶん本人も視野が狭いことはわかっている。わかっているけど、一度暗くなった視野はなかなか戻らない。膝を抱えてうずくまってしまう。自分で自分を閉じ込めてしまう。そして視界は暗さを増す。

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photo by NASA Goddard Photo and Video

戦後にも現代にもある「絶望の入口」

先行き不透明な明日、不確かな未来、不安な日常。

『太陽黒点』の舞台は戦後だけど、現代でも悩みはおんなじだ。震災、就活うつ、景気低迷、熟年離婚。どの年代でスライスしても、絶望の入口が開いている。

視野を狭くしてるのは自分自身だけど、その自分は外の影響を受けている。就職を逃したらお終いだぞ、景気は良くならないぞ、1人じゃ生き残れないぞ…悪い噂が心に体にジワジワ染みていく。

『太陽黒点』ではそんな絶望に落ちる人々が肝になるけど、現代の僕らは情報=悪い噂が多い分、より絶望に落ちやすいのではないかと思う。

どうか絶望に落ちず、自分で自分の人生に灯りを。過去に復讐されず、「これでいいのだ」と言える日々を。

『太陽黒点』を最後まで読み通し、そう願わずにはいられない。