マジシャンと観客のあいだの「見えないガラス」『知的な距離感』

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クロースアップ・マジックを得意とするマジシャン、前田知洋さんの著書。テレビでも観たことある人、多いんじゃないだろか。

クロースアップ・マジックは、観客のすぐそばで見せるスタイルのマジック。

すぐそばだから、観客に触られたくないものでも目の前に置いとかないといけない。でも観客に「これ触っちゃだめね」と言うのは台無し。

じゃぁどうやって「触らせないで」マジックをやってるのか?

実はマジシャンはさりげなく「距離感」を演出してるとのこと。これを前田さんは「プライベートエリア」と名付けている。

空気やオーラみたいな、なんか人に距離を感じる時ってある。マジシャンはその「距離」を自らコントロールしてるんだって。

具体的に、本書に挙げられてる例をご紹介します。

「シカケがあるか調べてみますか?」

マジックを始めるとき、観客も緊張しがち。目の前にマジシャンがいる、なんてなかなかない機会だし。でもそのままだと盛り上がらない。

そこにマジシャンがトランプを出して「調べてみますか?」と観客に手渡す。数人の観客が調べて、マジシャンにカードを返す。

トランプを調べただけ、のやりとりに見えるけど、実は別の目的がある。

トランプを観客に渡すことにより、自然とマジシャンと観客の距離が縮まる。物理的な距離の接近により、精神的な距離を縮める手法だそうです。

距離が近いと親しい感じがする。初対面の相手に「何かを渡す」「握手する」など、自然と物理的な距離を縮めることで、緊張感をほぐす効果が期待できるそう。

逆に、親しくない人がいきなり近い距離にくると嫌な感じになる。突然上司が隣に座って小言、とか嫌な感じだもんなぁ。

トランプの空箱が主張する「境界線」

触ってほしくない、ということを、何気なく人に主張したいとき。

例えば、マジックだと観客の前に「これは予言のトランプです」とカードを一枚裏返しに置く場面がよくある。

この時、予言のトランプを、観客がペロッと先に見ちゃうと困る。予言だし。なので、マジシャンは「誰かがすり替えたりしないように見張っててください」と予防線を張ったりするけど、それも万全ではない。

こんな時、マジシャンはカードと観客の間の境界線上に、何気なくトランプの空箱を置いておくんですって。

トランプの空箱が置いてあると、その上を「領空侵犯」してカードに手を伸ばすことになるので、格段に効果があるそう。

街中でも、低い花壇、駐車防止のコーンなど、動かそうと思えば動かせるけど境界線として働くものがある。誰もいない席にジャケットがかけてあったりすると、誰も座らないもんね。

日常にあふれる「プライベートエリア」

こんな感じで、マジックで使う「知的な距離感」が、実は日常に溢れてることを教えてくれる。

車の中での告白がなぜ上手くいくか、エレベーターに乗るとみんな上を向くのはなぜか、リムジンの出迎えが上質なおもてなしとなるのはなぜか、その答えは「プライベートエリア」にある。

この本で得た知識を持って、もう一度クロースアップ・マジックを観たら、また違った楽しみ方ができそうです。