ご存知池上さん。もはや「わかりやすい」の代名詞、伝道師であります。
池上さん、NHK出身ということは割と知られていると思うんですけど、「元アナウンサー」だと思ってる人いませんか?
僕もつい最近まで勘違いしてたんですけど、池上さん、元は記者なんですよね。元々しゃべりが本職じゃないんですよ。
それであの語り口なんです。
本来しゃべる職業じゃない記者が、どうやってあの「語り」を身に付けるに至ったか。その経験から「わかりやすさの技術」を教えてくれる本書は、まさに「池上彰ヒストリー」。
すべては「現場」を伝えるために
池上さんが「わかりやすさ」について真剣に考え始めたのは「現場リポート」をするようになってから。
当時は中継を映像を流しながらアナウンサーが原稿を読むのが主流。今では当たり前の「現場レポート」を、記者としてやるようになった先駆けだったそうです。
先駆けなので、やったことがある先輩がいない。全てが手探り。アナウンサーが読んだ原稿を、再び現場で読んでも意味がない。現場の状況を伝えないといけない。「いまどうなってる」を伝えないといけない。臭いを伝えたり、カメラを連れて現場を歩いたり、他人が書いた原稿を書き換えたり、自分でいろいろ工夫をした。
そんな「わかりやすさ」の試行錯誤をしていたら、今度は記者の自分がキャスターに抜擢される。平日20:45から15分間の首都圏向けニュース。もちろん生放送。ガチガチに緊張する池上さん。
自分はしゃべりのプロではない。ではなぜ起用されたのだろう…と考えて、記者ならではの解説を求められているのだ、と行きつく。毎日のニュースを図解して、解説して、フリップも作る。
その後「週刊こどもニュース」に起用されるが、今度は子供たちに自分の「常識」が通じないことに愕然とする。そこから説明がいるのか!ということばかり。ここでもまた、「わかりやすさ」を求めていく。
池上さん、「わかりやすさ」を追い求めた結果、いろんな仕事が後からついてきてるのだ。
「わかりやすさ」は誰のためのものか
池上さんが必要としてきた「わかりやすさ」は、現場ごとに違う。
つかみを大事にして原稿を書いたり、階層を意識してプレゼンしたり、模型を使って説明したり、池上さんはその現場に合わせて「わかりやすさ」を考えてきた。
この本ではそれぞれのノウハウを惜しげも無く公開してくれる。でもノウハウだけ真似しても、たぶん池上さんには近づかない。
伝えたい事、伝えたい相手、場所や時間やタイミング、すべてをきちんと考えて「わかりやすさ」はできるのだ。「わかりやすさ」は自分のためじゃなく、相手をおもってこそなのだ。
伝えたいことは、もろい。
相手の心に届くまで、変形し、歪み、黒ずんだりする。
伝えたいことを、なるべくそのまま、優しく優しく、相手の心に運ぶ。
その柔らかな手つきこそが、「わかりやすさ」を生むのだと思う。