高校は男子校だったんですよ。
そもそも中学のころからモテなかったので、本命チョコなんてもってのほか、義理チョコすらもらわずにガラスの10代を送っていました。壊れそうなものばかり集めていました。
バレンタインになると、母親がスーパーでチョコを買ってきたり、おばあちゃんがお菓子の問屋からチロルチョコ1箱(100個入り)を買ってくれたりしました。チロルチョコ100個はテンションあがったなー。全部テーブルに出して両手ですくって指の隙間からガラガラガラ〜って落としたりした。海賊がお宝の金貨を見つけたときのリアクション。
そんなわけで男子校の高校ではチョコをもらえるわけはなく、むしろ学校内からチョコをもらったやつがいるらしい…という都市伝説に怯えながら、2/14を迎えていました。
このころ僕は学校帰りにあるゲーセンに行くのが日課でした。ずっと入り浸ってて、他の常連とも仲良くなって、一つのコミュニティがそこにできていました。ケータイもネットもない時代です。
常連の中には男子も女子もいましたが、そんなとこに集まる男子はたいていモテない奴らなので、バレンタインが近づいてきた時は、チョコなんてもらったことないよ〜、とか、お母さんからしかない〜、とか、俺も〜チョコ欲しいよ〜なんて馴れ合っていました。
その年のバレンタインの日。
常連の女子のひとりが、リボンがかけられた箱を5、6個もってゲーセンにやってきました。
その箱をモテない奴らに1個ずつ配り、呆然とする男子を前にこんな内容のことを言ったんです。
「これはチョコレートだ」
「これで君たちは女子からチョコレートをもらったことになる」
「もう二度と、人前でチョコが欲しいなど、情けないことを言わないこと」
「わかったか」
男子は全員、黙って首を縦にふった。カクカクふった。箱を両手で大事に持って。
初めて女子にもらったチョコは、本命で義理でもなく、教育的指導だった。
家に帰って、親にも妹にも見つからないように、部屋でそっとリボンを解いて箱をあけた。トリュフが6個はいっていた。
もったいなくて、一日一個づつ食べた。