【漫才】名前を出さないで

「「はいどうもー」」
「プール行きたい」
「季節感ゼロの出だしですけど」
「プール行きたいんだもん」
「真冬ですよ」
「温水だよ!」
「でしょうけど」
「ぬくみずじゃないぞ」
「でしょうけど」
「あれ、プール、知ってる?」
「そこまでスタートライン後ろじゃないです」
「てっきり」
「体育の授業でやったりしたでしょ」
「一緒だ!俺も義務教育受けてた」
「義務だからね」
「パンツ隠されたり」
「そんな義務はないけど」
「クロールしたり平泳ぎしたり」
「言うならそっちのほうが先だね」
「じゃやってみようか!」
「クロールを?」
「ケンちゃんはパンツ探してて」
「そっちやるの」
「大丈夫、いつもどおりに!」
「いつもパンツ隠されてるみたいじゃん」

「……あれ?……あれ?……んー……」
「ケンちゃんどしたの」
「や、なんでもない」
「老眼?」
「小学生」
「なんか探してんの」
「なんでもないなんでもない」
「なんでもなくないって。血眼だぞ!」
「そこまででは」
「水くさいな、同世代だろ!」
「同じ学年だからね」
「手伝うぞ!」
「うん……」
「どした?」
「今日の体育、水泳だったじゃん」
「水泳だった。クロールしたり平泳ぎしたりした」
「終わってプールから帰ってきたら…パンツがないのよ」
「エェーーー!」
「シーッ!声でかい」
「一大事じゃん」
「うん」
「じゃいまノーパン?」
「……うん」
「エェーーー!」
「声でかいって!」
「マジか」
「マジ。探してるんだけど、どこにもなくて」
「わかった。じゃちょっと放送室行ってくる」
「待て待て待て」
「なに」
「なんで放送室行くの」
「みんなにケンちゃんのパンツ探してもらう」
「言うの」
「全校に」
「やめてよオレいまノーパンだってバレるじゃん!」
「バレないバレない」
「いや、パンツ無くなったらイコールノーパンでしょ」
「そこはうまくやるから」
「やりようがないでしょ」
「えー、全校生徒の皆さん。お食事中失礼します」
「給食の時に言うの」
「3組の…フフ…ケンちゃんのパンツが…フフフ」
「半笑いじゃん」
「見つけたら国旗掲揚台に…」
「あのさ、せめて、ケンちゃんが、ってとこやめない?パンツだけにしない?」
「なんだ、名を馳せたくないのか?」
「そんな野望ない」
「パンツ探してってだけ言って、女子のパンツが届いたらどうするんだ」
「こないでしょ」
「女子のパンツが国旗掲揚台でハタハタしたらどうするんだ」
「厳重に保管にしなよ」
「女子のパンツを…厳重保管…」
「とにかく名前はやめて」
「…厳重に保管してから10年の月日が流れ…」
「聞いてる?」
「あのね、ケンちゃん。俺はね、パンツが無くなるなんていうね、こんな悲劇を二度と繰り返してはいけないと思う」
「お、おぅ」
「この悲劇の連鎖を断ち切らないといけない。それにはケンちゃん、君の力が必要なんだ」
「お、おぅ」
「名前を貸してくれるね」
「意味がわからない」
「欧米ではノーパンであることは決して恥ではないんだぞ」
「僕は恥ずかしいのよ」
「アフリカにはパンツを履いてない人がたくさんいるんだぞ」
「文化の違いでしょうよ」
「ノーパンを隠れ蓑にして、それでいいの」
「隠せなくて困ってるのよ」
「パンツだって、ケンちゃんのパンツとして探されたいはずだぞ」
「パンツはパンツだから」
「頑固一徹だな」
「もうそっとしといて」
「そんなわけにはいかないんだよ!」
「いいから」
「この手にケンちゃんのパンツを取り返すんだよ!」
「僕の手に返してよ」
「パンツを隠した奴を見つけだして、ボコボコにするんだよ!」
「やめなよ」
「そして言ってやるのさ……このことは誰にも言うんじゃない、ってね」
「お前は名前出さないのかよ。いいかげんにしろ」

「「どうも、ありがとうございましたー」」