現実と近未来を結ぶハイ・ウェイ 『Gene Mapper』

2037年。

と、書くと遠い未来のような気がするけど、あと24年後のこと。

この遠すぎず近すぎずの近未来を描くSF『Gene Mapper』の世界では、インターネットは別のものに置き換わり、拡張現実が人のコミュニケーションを媒介する。

さらにこの『Gene Mapper』は個人が出版した電子書籍。にもかかわらず、Kindle本の2012年の小説・文芸部門トップになるなどベストセラーとなっている。

『Gene Mapper』は近未来が現実となった電子書籍で、現実から近未来へSFという線を伸ばす。

主人公は農作物の遺伝子をマークアップし外観を設計する”スタイルシート・デザイナー”林田。

なんのことやら?という紹介だけど、2037年のこの世界では農作物は遺伝子工学でゼロから作ることが可能になっている。病気や気候に強くて味も問題ないイネなんかできちゃう。見た目も遺伝子操作で作れちゃうので、いろんな色のイネとか作れる。林田はその見た目、外観のデザイナー。

ある日、カンボジアに納品したイネ、SR-06に異常が発生したとエージェントから連絡が入る。その畑にはオレンジと蛍光グリーン(!)のイネがあり、衛星写真で見るとその2色で農場を経営する会社のロゴが描かれている、はずなのだ。そのロゴが崩れはじめている。汚染されたイネが混じっているらしい。

原因を探るうち、遺伝子操作される前のイネのDNAが必要となることがわかる。しかしその時代のDNAデータは2014年に崩壊した”インターネット”の中。林田は「キタムラ」という”ダイバー”に誘われ、”インターネット”が生きているホーチミンへ飛ぶ。

現実から近未来へ

序盤は世界の説明をするのがメインになり、よくわからないカタカナ言葉もお構いなしにバンバン飛び交う。追いつくのが大変(事実一度挫折しました…)なんだけど、あまり気にせず、そのままかっ飛ばしてスピードに乗った方が楽しめる。

なにせ2037年は未来前夜の未来というか、現実から未来に線を伸ばしたらこうなるかも…というモノであふれている。

会議をする時は拡張現実の空間でアバターを代わりに立てて、顔の表情や身振りを隠すのがマナー。手持ちのコンピュータには声で指示し、空間を手で操作して部屋全体をモニタ代わりにする。でも、数ギガのデータを伝送しようとすると何時間もかかる(だから実際にホーチミンに行く)。いまと共通の不便が残っているのがまたリアル。

細かいことは抜きにして、物語のスピードに乗っちゃう。林田がホーチミンに乗り込む頃には、この先なにが待ってるのかワクワクして止まらなくなってる。

近未来が現実に

このクオリティが全て個人の手で作られている、というのがまたワクワクする。表紙のCGまでも著者の藤井さん作。

そして執筆はなんと全部iPhoneでやったというから驚き(青空文庫形式で12万字!)昼間の本業に差し支えないよう、通勤時間を利用して書いたとのこと。スマートフォンで読まれるのを想定して段組も構成されているらしい。iPhoneでここまで書けるんだ…。

公式サイト(Gene Mapper | Official Web Site)にはkindleの他にkobo,、iBooks、GumroadによるEPUBの直接販売など、各種プラットフォームで販売する体制が整っている。

個人でここまでできる。そんな時代に僕らはいる。

未来だと思ってたら、現実になっている。

体験しないともったいない

物語はもちろん面白いし、これが全てiPhoneで書かれたという背景にも胸躍る。これからどんな未来が待っているのか、どんなことが現実になるのか。それはすごく楽しみだし、その未来を自分も創れたらと夢想してしまう。

この小説、体験しないともったいないですよ。

■関連:
日本人初? 「コボ」「キンドル」でデビューした新人作家が1位を獲得するまで – 林 智彦 – 本のニュース | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

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