妄想上等!言い訳だらけの竹林伐採 森見登美彦『美女と竹林』

パスティーシュ(模倣文学)の名手、清水義範に『似ッ非イ教室』という作品がある。タイトル通り、エッセイっぽいけど実はエッセイじゃない、「エッセイのパロディ」だらけの短編集。

この『美女と竹林』も、森見登美彦の現実と虚構が入り混じった、なんとも奇妙な「似ッ非イ」なのだ。

時は2006年にさかのぼる。

後にベストセラーとなる『夜は短し歩けよ乙女』の結末をどう終わらせるか、喫茶店でうんうん唸る森見登美彦氏。ついに現実逃避をはじめ、もう小説を書くだけは生きていけない、いや、小説だけでいいはずがない!多角的経営だ!他になにか好きなモノはないかーーと一人で追い詰めれ、なんでもいいから好きなもの、と手帳に書き記したのが

『美女と竹林』

という言葉。

なんのこっちゃ、というスタートであるけども、登美彦氏、美女はともかく竹林を追い求めていく。「これからは竹林の時代であるな!」と誰にともなく宣言。職場の先輩の実家が、荒れ果てた竹林を持て余していると情報を得る。竹林を手に入れる絶好のチャンス。京都の桂まで出向き、荒れた竹林を手入れする承諾を得る。そこから始まる竹林伐採の日々…。

の、はずなのだが。

初日こそバッサバッサと竹林を間引いていく登美彦氏。だけど段々、竹林をベースとした妄想ばかり膨らんでいく。『夜は短し歩けよ乙女』が売れ、仕事が増え、締め切りに追われて全然竹林に行けない。元は雑誌連載だったため、なんらかの進捗は書かないといけない。連載一回分が丸々弁明に終わる回まである。

ここでまた奇妙につながるのだけど、清水義範に『深夜の弁明』という作品があるんです。「締切りなのに書けない! 編集者に言い訳、お詫びを書き始めた作家は、ついに小説の予定枚数分の弁明を書き上げてしまった…」というあらすじ。そのまんま!

『美女と竹林』は『深夜の弁明』をリアルに雑誌連載でやってしまっているのだ。なにをしてるのだ。

ついには編集者まで担ぎだして竹林を刈りだすのだけど、本当にその竹林が存在するのかさえなんだか怪しくなってくる。『きつねのはなし』が森見登美彦の怖い部分を凝縮した作品集なら、『美女と竹林』は自虐的妄想を凝縮した作品。面白すぎてお腹痛い。

荒れ果てた竹林はどうなるのか?この連載をどうやって終わらせる気なのか?美女は出てくるのか?(※出てくる!)

鬱蒼とした竹林でひとり踊る森見登美彦氏をとくとご堪能あれ。