ちょっと前だけど、元Google社員たちが自分達で国を作っちゃうぞ、というニュースがあった。
この元Google社員、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者のお孫さん。公海に人工の島を浮かべて、独自の憲法を作って、自分たちの理想郷を作ろう、というプロジェクトらしい(政府に不満? じゃあ自分たちで作ってしまえ!と元Google社員が人工島に国家を建国中 : ギズモード・ジャパン)
このニュースに対して、Twitterでこんなコメントをした人がいる。
というかこの元グーグル社員のフリードマンの孫の方がやろうとしていることは、シーランド公国と同じやり方なので、どうせ戦争になってしまう。新政府構想は戦争という自然状態をいかに吸収して、違う生き方を示すかってことなので、一応、違うやり方です。この人みたいにやると戦争になりますので注意
— 坂口恭平さん (@zhtsss) 1月 3, 2013
この人こそ、日本国内(熊本)ですでに「新政府」を作り「初代内閣総理大臣」に就任している坂口恭平さん。
えっ、日本にもう一つ国があるの!?クーデターとかあったっけ!?
いやいや、そんな次元で作られた国じゃないんです。「新政府」はいかに作られたのか、そして元Google社員とは違う「戦争にはならない違う生き方」とはなんなのか。
全てはこの本に書いてある。
家賃って大地に払われるべきじゃないの?
坂口さん、もとは早稲田の建築学科で建築を学んでた。しかし子供のことから「土地を所有するってどういうこと?」という疑問が消えない。毎月家賃を払っているけど、そのお金ってなんで大家さんに払うの?大地に払われるべきじゃないの?
悶々とした日々の中、隅田川沿いを歩いていると、ブルーシートのハウスが目にとまる。そこはホームレスの住居。でも、ソーラーパネルがある。尋ねてみるとオール電化!しかも総工費0円!でもすごい狭い。大変じゃないですか?と聞くと「いや、この家は寝室にすぎないから」
寝室はこの家、トイレや水場は公園、冷蔵庫はスーパーやコンビニ、本棚は図書館…。都市が丸ごとこの人の「家」になっていることに驚く。自分たちの常識は1つの層(レイヤー)に過ぎず、都市には無数のレイヤーがあることを知る。
住まいとは?行政とは?公共とは?
従来の「常識」を捨て、レイヤーを自分で考えて作り上げる。調べてみると日本には「持ち主がいない土地」があることを知る。「モバイルハウス」という安価で移動可能な住居を作る。その生き方・考え方が海外で現代アートとして評価される。
そして、2011.3.11。あの大震災が起きる。
「領土」を持たない「新政府」
原発事故の報道をうけ、一家で熊本に引っ越した坂口さん。現政府の対応に不満を持ち、それならばと自ら「新政府」を設立する。内乱罪に触れないよう「芸術」という形で。
築80年の一戸建てを3万円で借り「首相官邸」とする。新政府の政策の柱は「自殺者ゼロ」。生存権の死守。震災からの避難者をゼロ円で受け入れる。夏には福島の子供達を呼んでサマーキャンプ。もちろん参加費ゼロ円。
そしてこの新政府は「領土」を持たない。
いや、正確には銀座にある所有者不明の土地を「領土」としている。つまり「新政府」は従来の土地の所有というレイヤーと別次元にいる。だから土地を争う戦争とは無縁なのだ。
とはいってもやっぱり家を借りたりとかしないといけないので、そこは「現政府」のレイヤーに乗っかる。この辺、柔軟にできている。
そうこうしているうちに熊本県と「外交」したり、賛同する「国民」が増えたり、国民全員を何らかの「大臣」に任命して「組閣」したり、活動はどんどん広がっていく。
生きるとは、態度をしめすこと
坂口さんは考える。角度を変え、疑問を持ち、答えを決めてしまい、行動する。
ここで、えっ、「決めて行動しちゃうの」と読んでると思っちゃうのだけど、これが坂口さんの生き方。態度で示しちゃう。態度を贈与する。態度で交易する。
態度は行動を生み、行動は効果を生み、効果は態度をつくる。
なにかに絶望したとき、人は視野が狭くなっていることが多い。
お金がない、仕事がない、どうしても不安になる。でもその「不安」は常識というレイヤーの上での「不安」でしかない。
レイヤーを変え、つくり、飛び回れば、いくらでも生きることはできる。
思考し、歩き、出会えば、世界を広げることができる。
読み終わって感じるのは、生きることへの熱だ。熱風だ。
まさにこの本は坂口内閣新政府総理大臣の所信表明演説なのだ。
演説は最後にこう締められる。
みんな今すぐ持ち場に戻って、行動に取りかかろう。
また会おう。どこかできっと。
世界は1つじゃない。そして僕らは、1人じゃない。