しあわせなら「態度」で示そうよ。 坂口恭平『独立国家のつくりかた』

ちょっと前だけど、元Google社員たちが自分達で国を作っちゃうぞ、というニュースがあった。

この元Google社員、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者のお孫さん。公海に人工の島を浮かべて、独自の憲法を作って、自分たちの理想郷を作ろう、というプロジェクトらしい(政府に不満? じゃあ自分たちで作ってしまえ!と元Google社員が人工島に国家を建国中 : ギズモード・ジャパン

このニュースに対して、Twitterでこんなコメントをした人がいる。

この人こそ、日本国内(熊本)ですでに「新政府」を作り「初代内閣総理大臣」に就任している坂口恭平さん。

えっ、日本にもう一つ国があるの!?クーデターとかあったっけ!?

いやいや、そんな次元で作られた国じゃないんです。「新政府」はいかに作られたのか、そして元Google社員とは違う「戦争にはならない違う生き方」とはなんなのか。

全てはこの本に書いてある。

家賃って大地に払われるべきじゃないの?

坂口さん、もとは早稲田の建築学科で建築を学んでた。しかし子供のことから「土地を所有するってどういうこと?」という疑問が消えない。毎月家賃を払っているけど、そのお金ってなんで大家さんに払うの?大地に払われるべきじゃないの?

悶々とした日々の中、隅田川沿いを歩いていると、ブルーシートのハウスが目にとまる。そこはホームレスの住居。でも、ソーラーパネルがある。尋ねてみるとオール電化!しかも総工費0円!でもすごい狭い。大変じゃないですか?と聞くと「いや、この家は寝室にすぎないから」

寝室はこの家、トイレや水場は公園、冷蔵庫はスーパーやコンビニ、本棚は図書館…。都市が丸ごとこの人の「家」になっていることに驚く。自分たちの常識は1つの層(レイヤー)に過ぎず、都市には無数のレイヤーがあることを知る。

住まいとは?行政とは?公共とは?

従来の「常識」を捨て、レイヤーを自分で考えて作り上げる。調べてみると日本には「持ち主がいない土地」があることを知る。「モバイルハウス」という安価で移動可能な住居を作る。その生き方・考え方が海外で現代アートとして評価される。

そして、2011.3.11。あの大震災が起きる。

「領土」を持たない「新政府」

原発事故の報道をうけ、一家で熊本に引っ越した坂口さん。現政府の対応に不満を持ち、それならばと自ら「新政府」を設立する。内乱罪に触れないよう「芸術」という形で。

築80年の一戸建てを3万円で借り「首相官邸」とする。新政府の政策の柱は「自殺者ゼロ」。生存権の死守。震災からの避難者をゼロ円で受け入れる。夏には福島の子供達を呼んでサマーキャンプ。もちろん参加費ゼロ円。

そしてこの新政府は「領土」を持たない。

いや、正確には銀座にある所有者不明の土地を「領土」としている。つまり「新政府」は従来の土地の所有というレイヤーと別次元にいる。だから土地を争う戦争とは無縁なのだ。

とはいってもやっぱり家を借りたりとかしないといけないので、そこは「現政府」のレイヤーに乗っかる。この辺、柔軟にできている。

そうこうしているうちに熊本県と「外交」したり、賛同する「国民」が増えたり、国民全員を何らかの「大臣」に任命して「組閣」したり、活動はどんどん広がっていく。

生きるとは、態度をしめすこと

坂口さんは考える。角度を変え、疑問を持ち、答えを決めてしまい、行動する。

ここで、えっ、「決めて行動しちゃうの」と読んでると思っちゃうのだけど、これが坂口さんの生き方。態度で示しちゃう。態度を贈与する。態度で交易する。

態度は行動を生み、行動は効果を生み、効果は態度をつくる。

なにかに絶望したとき、人は視野が狭くなっていることが多い。

お金がない、仕事がない、どうしても不安になる。でもその「不安」は常識というレイヤーの上での「不安」でしかない。

レイヤーを変え、つくり、飛び回れば、いくらでも生きることはできる。

思考し、歩き、出会えば、世界を広げることができる。

読み終わって感じるのは、生きることへの熱だ。熱風だ。

まさにこの本は坂口内閣新政府総理大臣の所信表明演説なのだ。

演説は最後にこう締められる。

みんな今すぐ持ち場に戻って、行動に取りかかろう。
また会おう。どこかできっと。

世界は1つじゃない。そして僕らは、1人じゃない。