『東西ミステリーベスト100』に回答した僕のベスト・ミステリ10冊

先日、文藝春秋の『東西ミステリーベスト100』に参加したことをご報告したのですが(詳細→【お仕事】『東西ミステリーベスト100』に参加させていただきました)、誰がどんな作品になんてコメントしたのかって、本誌には全部載ってないんですよね。

というわけで、この場を借りて、僕が投票した順位・作品名・コメントを公開します。僕のベスト10冊。

ただ、順位については最大瞬間風速なので、もう変動しています(本誌を見て「それがあったかー!」「忘れてたー!」を連発しているため…)一応、作家1人につき作品1つ、という縛りで挙げました。また、海外についてはベスト10を選べるほどの読書量ではないので、国内のみ回答しました。

とにもかくにも、この10冊、どれもメッチャ面白いです。年末の本選びの参考になれば。

【オールタイムベスト:国内】

■1位:『震度0』 横山秀夫

警察内部の不祥事の発端から始末までを、幹部五人と宿舎の妻たちの視点から織り上げる、曲者たちの地層地図。読後感はまさしくタイトル通りの「震度0」。静かな震えが止まらない。(過去のレビュー:横山秀夫『震度0』

■2位:『叫びと祈り』 梓崎優

灼熱の砂漠、極寒の礼拝堂、多湿の密林と舞台を変え、特殊な人々の特殊なルールに則った謎と解決が素晴らしい連作短編。これに叙述トリックまで巧みに仕込まれるのだから溜息で肺がつぶれる。(過去のレビュー:動機と叙述の華麗なる融合 梓崎優『叫びと祈り』

■3位:『霧越邸殺人事件』 綾辻行人

館シリーズと迷ったが、超常現象とフーダニットが同居するインパクトからこちらを推す。邸内見取図の複雑さから来るワクワク感は今でも色あせない

■4位:『ラッシュライフ』 伊坂幸太郎

仙台市内をバラバラの5人がバラバラに動いているはずが、読者含めて全ては作者の手のひらの上。いくつも小さなハテナが、ある一点で全て氷解する様が美しい。(過去のレビュー:伊坂幸太郎『ラッシュライフ』

■5位:『奪取』 真保裕一

圧巻の偽札作りエンターテイメント。印刷、材質、機械の認識などなどなど、全ての関門をくぐり抜けるトライアンドエラー。まさにDASHの一気読み必至。

■6位:『斜め屋敷の犯罪』 島田荘司

全てが謎とその解明に奉仕するとはまさにこの事。こんな着想からここまでパッケージ化してしまう、緻密さと豪快さにただただ敬礼。

■7位:『ロートレック荘事件』 筒井康隆

狭い邸内、限られた登場人物、全て提示された手がかり。なのに犯人が全然当たらない。衝撃の種明かしに誰もがアッとページをめくる。言語の現場に限界なし。

■8位:『亜愛一郎の狼狽』 泡坂妻夫

逆説、逆転、逆回転。不可思議な現象を軽やかにくるりと回す手さばきはまさに手品師の業。

■9位:『空飛ぶ馬』 北村薫

「日常の謎」のゲートを開けたサラブレッド。発端の不思議、論理の飛躍、解決のエレガントさを短編に込めた職人芸。一つのジャンルを作った功績をもつ一作。

■10位:『鉄鼠の檻』 京極夏彦

水墨画の世界で繰り広げられる論理と禅のつばぜり合い。京極堂シリーズでは珍しいクローズドな舞台が謎と真相に大貢献。勝つのは悟りか理(ことわり)か。