「落ち着いて聞いてくれ…犯人は、この中にいない」

photo:Question mark by Marco Bellucci

 

「みんな、落ち着いて聞いてくれ…犯人は、この中にいない」
「なんだって!?」
「そんなバカな!」
「仲間を疑うなっていうの!?」
「外部犯の犯行は否定されたじゃないか!」
「みんなが言うことはもっともだ。だけど、こうなった以上、そう考えるしかない」
「どういうことだよ…」
「ドアも窓も施錠されてない。凶器の包丁はここの台所のものではないから、誰にも持ちだせない」
「…アリバイ、アリバイは?」
「全員確かに存在する」
「そんな…」
「この中に犯人がいないなんて…」
「そうだ、電話は!?」
「通話音が鳴ってる。つながっているわ!」
「携帯は!?」
「残念ながらバリ3だ」
「ふもとまでの道は!?」
「全て舗装されている。唯一の橋もきれいなもんだ」
「万事休す、か…」
「仕方ない、全員に聞きたいことがある」
「なんだよ」
「この中で、犯人でないやつは名乗りでてほしい。いまなら話を聞く。どうだろう、正直に出てきてくれないか」
「…」
「…」
「…」
「…やはりダメか」
「やれやれ、とんだ茶番だな」
「ちょっと、どこ行くのよ!」
「殺人犯がいないところになんか居られるか!俺は外に出るからな!」
「待って!」
「好きにさせておけ」
「でも…」
「ほっとけ。とりあえず朝までどうするかだな」
「こうしよう。全員、部屋に戻って寝る。ドアも窓も決して閉ざさぬこと。夜中に決して二人以上で行動しないこと」
「不自由だけどしょうがないわね」
「身の安全のためだからな」
「じゃぁおやすみ」
「あぁ、おやすみ。また明日」
「生きてたらな」
「本気にするぞ」
「おやすみ」
「おやすみ」