『落語家はなぜ噺を忘れないのか』で「伝えること」を学ぶ

意外に知られてないですが、落語家さんは舞台に上がる直前に何の噺をするか決めることが多い。

前の人がやったネタや季節柄、お呼ばれか独演会か、何番目に演じるか、様々な状況を考えて演じる噺を決める。それはつまり、選択肢を広く持つために手持ちの噺をたくさん持ってないといけない=覚えてないといけないことになる。

そんなわけで本書。ビジネス書みたいなタイトルの本だけど、単なる記憶術の話ではない。いかに噺を自分のものにするか、作中の言葉でいえば「手の内に落とす」か、ということが主眼。それは落語家さんの秘密、まさに「手の内」を明かす話になっていて面白い。

ちょっと話がそれるけど、例えばプレゼンとかの発表の場で、原稿を棒読みの人がたまにいる。なんかそういう人の話って頭に入ってこない。逆に、発表をちゃんと練習した人の話はやっぱりわかりやすくなる。

物事を伝えるためには、伝えることを自分の中に落とし込まないといけない。

落語はあらすじを話せばそれで終わってしまう。でも演じるためには登場人物の気持ち、世界観、体の動かし方や目線まで、ちゃんと自分の中に噺を落とし込まないと伝わらない。笑わすためにギャグを盛り込んだら噺が伝わらなかった、という失敗談も語られる。ちゃんと噺の芯を理解しないといけない世界なのだ。

そして「伝える」というテーマはそのまま「伝承」にもつながっていく。受け継がれてきた古典落語を、どのように自分のものにするか。そして落語という文化を後世に伝えていくにはどうしようか。落語家は常に過去と未来をつなぎ続ける。

本来はネタの取り組み方や稽古/アレンジの仕方、師匠たちの裏話など、落語ファン垂涎の一冊なんですが、自分にとっては伝えること/人前で話すことはどういうことか、改めて教えてくれた一冊でした。漫才・コントを作る人にもとっても勉強になりますよ。久しぶりにネタ作りたくなってきたなぁー。
 

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