無礼な執事のメガネが光る 東川篤也『謎解きはディナーのあとで』

昨年売れに売れて、本屋大賞を受賞して、嵐の櫻井翔主演でテレビドラマ化までされる本作。デビュー作から東川篤也を読んでる身としては、こんなに大きくなって…という万感の思いと、読み逃した作品がどんどん話題になっていまさら読みづらくなって…という戸惑いの狭間におりました。やっと読みました。どうもすいません。あらすじはこんなんです。

国立署の刑事ながら家に帰れば大富豪のお嬢様の麗子。難事件に疲れて、執事の影山に事件のあらましを話して聞かせると「失礼ですが、お嬢様はアホでいらっしゃいますか」とまさかの暴言。怒りに震えながら話を聞いてみると、影山は事件の謎を聞いただけで解いていて…。

という、いわゆる「安楽椅子探偵」ものの短編集。実は著者初の短編集じゃないのかな?特有の小ネタ混じりの会話劇を散りばめ、登場人物が少ないのでキャラが立ちやすく、ミステリ的にもツボを押さえていて、短編なのでさっくり読める。なるほど面白い。段々影山が失礼になっていくのもいいですなぁ。

これまでの東川作品は長編で何人もの登場人物がドタバタして、一見ギャグと思われた言動や出来事があとで伏線となって効いてくる、という特徴があった。どんな大仕掛けもギャグでねじ伏せる力業も備えてる。でもさすがに短編ではそこまでできない。なので、面白いんだけど長編からのファンはちょっと物足りなさもある。

その代わり、本作の短編ではキャラを絞って、事件も簡単すぎず難しすぎず、ユーモアの質は相変わらずとなっている。つまり間口が広がった=多くの人に読まれるようになったんじゃないかなぁと思った。

本作で東川篤也が気になった人は是非とも過去の長編を読んでほしいですなぁ。もっと笑えてもっと驚けること請け合いですよ!僕のオススメは『館島』と『交換殺人には向かない夜』ですかねー。

あと、執事が主人より狡猾、という設定がお気に召したなら海外作品ですがP.G. ウッドハウス『比類なきジーヴス』もオススメです。

P.G.ウッドハウス『比類なきジーヴス』 | イノミス