“見つめるナベは煮えない” 外山滋比古『思考の整理学』

◆”思考の整理とは、いかにうまく忘れるか、である。”

1983年刊行の本書が、盛岡の書店員のPOPがキッカケで大ブレイク。「東大・京大で一番読まれた本」という帯もついて、気がつけば100万部を突破。

20年の時を経ても色あせないその秘密はなんだろ?と読んでみると、最初の章「グライダー」はこんな感じの内容。

近年、学校教育では知識を詰め込むだけの教育になっている。頭を使うということは、自ら発想する力にある。引っ張られて飛ぶだけの「グライダー人間」ではなく、自分で飛べる「飛行機人間」になるべきだ。物を覚えたり単純な作業をするのはコンピューターにやらせればよろしい───

えー…全く色あせてません…。20年以上前から全然変わってないんだなぁ。

というわけで本書、思考の整理学と銘打ってるけど、勉強法や記憶術の話ではなく、アイデアの生み方・生かし方を解説している本なのです。
 

◆思いつきの「熟成」

自身の実体験や豊富な事例から、アイデアが産まれる瞬間や逸話を紹介してくれる。各章、5,6ページという短さのエッセイで構成されててとても読みやすい。

で、日々産まれる思考の断片、たわいもない思い付きを一つのアイデアに「忘れる」ことを勧めている。

せっかく思いついたのに忘れんの?と、一見矛盾してるようだけど、こういうことらしい。
 

一度書き留め、忘れる。見返して、再度ふるいにかける。時の試練を経て、個人の頭の中に古典をつくる。

よく「時間が解決する」みたいなことがあるけど、自分の中で「忘れる」ことで時間の解決を早めちゃうのだ。一回忘れて風化させちゃう。風化して残った思いつきを、他のと結びつけたりして新たなアイデアにする。覚えておくだけなら機械でもできる。

なんかこれって、クラウドやGTDっぽいところもあるなと思った。気になる事を全部書き出して、思いついたをEvetnoteに放り込んで、頭の処理容量を記憶ではなく考えることに使う。まさに最近よくある仕事術の話と結びつくなぁと思った。

作中では何度も「見つめる鍋は煮えない」という言葉が使われる。忘れることにより熟成させる。じっと留まっていても考えは固まってしまう。忘れることでどんどん進んで、回して、産んでいく。

うまく忘れることって、コンピューターにできない、人間の特権だものね。

20年の時を感じさせない、まさに普遍のバイブル。研究テーマからブログネタまで、発想の現場で幅広く使える話が満載です。