誇りを胸に駆け回れ 新野剛志『恋する空港 – あぽやん2』

あの空港トラブル処理小説『あぽやん』(→以前の感想)の第2弾。今回もオススメ!むしろ前回に増して!

空港=airportを略してAPO。国内最後の水際であらゆるトラブルに対応する空港のプロフェッショナルをかつて旅行会社・大航ツーリストでは「あぽやん」と呼んだ―成田空港所勤務2年目を迎えた遠藤慶太は新人教育に恋のライバル登場に悪戦苦闘。しかも、親会社・大日本航空の経営悪化の煽りを受けて空港所閉鎖の噂が!?立派な「あぽやん」目指して今日も走る遠藤の運命やいかに?爽快お仕事小説。

短編6本からなる短篇集。成田空港のツアー客用カウンターが舞台。チケット渡しなどの出発業務を行うところ。しかしそこは空港。集合遅れ、予約重複、出発遅れなどのイレギュラー対応が日常茶飯事な場所。前作はパスポート不所持、子供置き去り、幽霊予約などのトラブルをなんとか乗り越えてお客様を出発させてきた”あぽやん”。

今回のトラブルも強敵揃い。出国審査まで時間稼ぎをしないといけないテロリスト疑惑の男、出発直前で息子が迷子になってしまう妊婦、新興宗教の教祖のパスポートをなくした営業マン、台風の直撃によって騒ぎ出す韓流スターファンのおばさま方…。空港のトラブルは飛行機出発までのタイムリミットがあるので、毎回毎回手に汗握るスリリング。お客様のために一生懸命走りまわり、知恵を閃かせ、状況によって乗り切っていく。

そして短編一編ごとにそれぞれのトラブルも処理しながらも、グァム勤務帰りののんびり新人の教育や、所内恋愛の行方、テロリスト疑惑の男が残した謎、空港所の閉鎖騒動などをつないだ連作形式になっている。この連作の”縦糸”の密度が前作以上。連作の題材とトラブルの解決を巧みに絡ませながら展開する様はホントにお見事だなぁ。

なんとしてもお客様を出発させる。誇りを胸に駆け回るあぽやんたちに胸が熱くなる。絶対映像化に向いてると思うなぁ。もうオススメ!

(2012/12/28 追記)
なんとTBSでドラマ化決定!(木曜ドラマ9『あぽやん~走る国際空港』|TBSテレビ)これは楽しみ~

チャンスの女神を抱きしめたい

ビジネス系の格言でたまにこんな言葉を目にする。

「走ってくるチャンスの女神には前髪しかない。後ろ髪はないから通り過ぎてからはつかめない。だからチャンスがやって来たら逃さずつかむんだ」

チャンスを逃すなっていったって、いくらなんでも神の前髪をつかむって、相当罰当たりだと思う。

しかも女神。髪は女の命。キレていいところだ。そこまでしてチャンスが欲しいのか。

なんてことをTwitterでつぶやいたら「出会ったら迷わず思い切り抱きしめる!」という説もあると教えてもらいました。

なるほど、髪をつかむより抱きしめるほうが何倍も素敵である。しかも、抱きしめることができるということは、チャンスより自分が先を行ってるわけで、ビジネス格言的にもこの方がいいんじゃないか。

イメージ的には箱根駅伝の中継所。

向こうからチャンスの女神が走ってくる。復路6区の山下りを終えて、ヘトヘトの女神。中継所前のラストスパートだ。こちらはベンチコートを着て、大きめのバスタオルを構えて待つ。

次のランナーにたすきを渡し、倒れこむチャンスの女神。それを受け止める僕のバスタオル。よくやったと声をかけ、火照る体を抱き締める。上目遣いで僕を見るチャンスの女神。前髪は汗で顔に張り付いていて、後頭部はツルツル…。

だめだ。いくら女神でも、ワッ!と後ずさると思う。チャンスを捕まえるのは難しい。

パンク刑事、飲まれる 山口雅也『キッド・ピストルズの醜態』

金融業者コーエンの散らかった部屋で、作家ノーマンは途方に暮れていた。机には白髪の老人の生首。自分の鞄には男のものらしき手首。手には、この死体がコーエンのもので、自分がその殺害にかかわったことを示唆するマザーグースの歌詞……。何が起こったのか? スコットランドヤードの腕利きパンク探偵、キッド・ピストルズが風変わりな密室見立て殺人の真相に挑む! 傑作本格ミステリ中編を3本収録した、シリーズ待望の最新刊。

2年ぶり6作目になるキッド・ピストルズシリーズ。久しぶりなんで世界の設定忘れたなぁ…と思ったら、前書きにちゃんと「パラレル英国の概説」と題した解説があった。よかったよかった。

舞台はパラレルワールドの英国。年代は我々のいる世界と同じだけど、パラレル英国では警察の権威が地に落ちており、代わりに探偵が事件解決の権限を持っている。警察では誰でも警察官になれるようになってしまって、パンク族まで入隊できちゃう。このシリーズの主人公、キッド・ピストルズもその「パンク刑事」の一人。持ち込まれるのは変てこな事件ばかり。しかも「マザーグース」になぞらえたものばかり…。

「だらしない男の密室 ー キッド・ピストルズの醜態」「《革服の男》が多すぎる」「三人の災厄の息子の冒険 ー キッド・ピストルズの醜態、再び」の中篇3編を収めた中編集。

上に挙げたあらすじの「だらしない~」と、投獄されてるはずの殺人鬼《革服の男(レザーマン)》の目撃情報から展開が二転三転する「《革服の男》が多すぎる」は伏線の絡ませ方と解き方が巧み。そういえばあそこに書いてあった!という王道の驚きと、王道からひねくれた展開の妙がおもしろい。

最後の「三人の~」だけちょっと毛色が違って、犯人や動機は?という謎ではなく、「このお話は一体なに?」という趣向。閉鎖病棟に閉じ込められて…という出だしなんだけどなんだか様子が変。お互い身に覚えがない三人の双子。消える死体。不完全な建物。頼みのキッドも泥酔状態。ただちょっと予想がつく割に冗長だったりなので、トーンダウンに感じてしまいました。趣向は面白いんだけどなぁ…。
 

社会で”無能”にならないたった1つの方法 『ピーターの法則』

アホな上司、大企業の不祥事、政治家の信じられない失策、なんで管理統制の取れた社会で信じられないミスが起こるのか?

このカラクリを「なぜなら上司は大体みんな無能だから」とザックリ説明できちゃう法則がある。その名も『ピーターの法則』。ちょっと面白かったのでまとめてみました。
 

 

ピーターの法則ってなに?

1969年に教育学者のローレンス・J・ピーターが発見したのが『ピーターの法則』(そのまんま)この『ピーターの法則』、平たく言うとこういうこと。

「人は昇進を続けると、いつか能力の限界まで到達して、”無能”になってしまう」

たとえば、ある工場に有能な工員がいたとして、その人はすごい熱心でノウハウもあって、いろんな機械をすぐ直しちゃうとする。周囲の信頼も厚く、上司の受けもよかったので、班長に出世する。でも班長の仕事は部品の発注とかスケジュールの調整とかで機械は直接いじらない。つまらないので現場にちょっかいかけたり無茶苦茶なスケジュール立てて「できるってー」とか言ったりする。

もちろん班長に昇進しても仕事ができる人もいる。でも同じ理屈で有能な班長が有能な工場長になるとは限らない。有能な工場長が有能な支部長になるとは限らない…

こんな感じで、組織のなかで有能な人はどんどん昇進していくんだけど、いつか”無能”になってしまうところまで到達して、そこでピタッと昇進が止まる(またはポジション的にはあまり変わらんけど役職名がコロコロ変わったりする)

なので、いつしか上司のポストは”無能”な人で埋まってしまう。実際に仕事をしているのは「”無能”レベルに達していない人」がやってることになる。

…ちょっと”無能”って言葉が過激だけど、確かに、有能なプログラマは有能なマネージャーになるとは限らないし、有能な国会議員が有能な総理になるとは限らないしなぁ。最近そんなの良く見るなぁ。

でも、それでもすっごい有能な人もいるんじゃない?

昇進の仕組みと”スーパー有能”な人の末路

組織で昇進する条件に「組織の規律を守ってる」というのがある。組織の仲間を増やすわけなので(あと”無能”な上司が昇進を決めるので)うちの組織に良く従ってんなーヨシヨシ、という人が昇進しやすくなる。

逆に、すっごい有能な人は組織のルールを超えて能力を発揮してしまう。従来のやり方を否定したり、自己流のやり方で成果をあげたりするんだけど、組織からみると「はみ出し者」なのでなかなか昇進しない。そのうち転職とかで組織を飛び出してしまうか、腐って自滅してしまう。

…とのこと。

「というわけで上司はみーんな”無能”だよー」と言われると、なーんだやっぱり!という心当たりもあるし、ちょっと気持ちが楽になる。組織のみんながみんな有能で完璧な訳ではないのである。♪フンフーン

…いや待てよ、じゃぁ真面目に働いてると、僕らもいつか”無能”レベルになってしまうのか…? 

「創造的無能」のすすめ

昇進すると”無能”レベルになってしまうのなら昇進を断ればいいじゃん、と思いがち。

でも、昇進をバシッと断ると組織の中で「はみ出し者」になるので、今まで通りの仕事ができないかもしれない。昇進を断ったことが女房に知れると愛想をつかされるかもしれない。バシッというのもいろいろマイナスになる可能性がある。

というわけで、本の中でピーターさんは「創造的無能」という方法を伝授する。

「創造的無能」の実例として紹介されてるのがこんなの。

・園芸職人として一流だけど伝票をよくなくす(わざと)
・有能な工場長だけど仕事部屋がグチャグチャ(わざと)
・管理能力に優れた部長だけど、よく社長専用のスペースに車を駐車する(わざと)

つまり、「仕事はできるけど、昇進を持ちかけられないように、本筋とは無関係なところで無能を演じる」のが「創造的無能」なのだ!

…なのだ!

…せこい!あまりにもせこい!

「こんなにがんばってるのに、なんで出世できないんだろうなぁ」なんて言いながら、ボロボロの服で出社したりするだ。コントか!

でもピーターさんは真顔でこう語る。

(創造的無能は)何百万という人々が無能レベルに達するのを防ぎます。その結果、欲求不満を抱えて非生産的状態に陥ったかもしれない何百万という人々が、残された生涯を幸福に、社会の有益な一員として過ごせるようになるでしょう。
(中略)
トータルでどんな結果がもたらされるか知りたいですか?ものすごい数の人間、ものすごい量の時間と創造力と熱意が、生産的な目的のために解き放たれるのです。

そうかもしれないなぁ

より効率的に、より正しく、より上へ。

書店に行ってビジネス本の棚を見ると、あまりのガツガツぶりにうんざりすることがある。あんなに仕事論があるのに、仕事で幸せになってる人を見ることは少ない。

やりたいことをやりたいレベルでできるなら、余計なストレスを抱えることもなく、幸せに働けるのかもしれない。

それがホントにできるかは別として、『ピーターの法則』はちょっと頭の隅っこに置いておくと、社会の不条理や自身の能力を、慌てずちょっと冷静に俯瞰できそうな、そんな気がします。

『ピーターの法則』の本の中では、より詳しく”無能”レベルの階層社会について述べられてるし、昇進による上昇志向がもたらす身体的不調、既に”無能”レベルに達してしまった人はどうしたらいいか、など、より丁寧に自説を論じています。

一見、冗談に見えるけども、周りを見渡すとそうかもしれん…と思えるこの法則。異端児のようで王道。おもしろいですよ。

自分でもわからない

ビューティーこくぶ、というジャパネットたかたの高田社長のモノマネがすごい上手な芸人さんがいる。

この前、テレビをつけたまま部屋で別のことをしていたとき、「見てください、この、だぁいがめ~ん」という例の声が聞こえてきて、やっぱりビューティーこくぶのモノマネはうまいなぁ、と思ってテレビを振り返って驚いた。

高田社長本人だった。

ガチのジャパネットたかたテレビショッピングだった。すごいビックリした。デフォルメされたキャラクターだと思ったら本人だった。

もうなんというか、高田社長自身が無意識にデフォルメ側に近づいているんじゃないだろうか。高田社長はフィクションになってしまうのか。生きながら架空の人物になってしまうのか。
 
 
同じことをやり続けていると自分でもよく分からなくなってしまう。
 
 
かつてダンディ坂野がブレイクした時、ダンディは毎日「ゲッツ!」をやり続けた。朝起きて、現場に行き何回も「ゲッツ!」をやり、また次の現場へ。家に帰ってもただ眠るだけの日々。

ある日、移動中のロケバスの中で、ダンディ坂野は流れる景色を見ながら、一人つぶやいたと言う。

「ゲッツって、なんなんだろうね…」
 
 
同じことをやり続けていると自分でもよく分からなくなってしまう。
 
 
久しぶりにコラムを書いているせいか何をどうすれば面白くオチるのか自分でもよく分からなくなっている。