あのビデオ見ちゃった

官僚A「これで終わり?」
官僚B「これで終わりみたいですね」
官僚A「見ちゃったね」
官僚B「見ちゃいましたね」
官僚A「映ってたねぇ」
官僚B「映ってましたねぇ」
官僚A「決定的瞬間が」
官僚B「映ってましたねぇ」
官僚A「でも、ねぇ」
官僚B「見せられないですよねぇ」
官僚A「どうする?みんな見たいよね」
官僚B「見たいですよね」
官僚A「決定的瞬間の前で止める?」
官僚B「すごい気になるじゃないですか」
官僚A「逆に?」
官僚B「逆にすごい気になるじゃないですか」
官僚A「じゃぁ、『続きはWEBで』っていれる?」
官僚B「検索しまくっちゃうじゃないですか」
官僚A「逆に?」
官僚B「むしろストレートに」
官僚A「まずいよー。あれが急上昇ワードになっちゃうのはまずいよー」
官僚B「軽部アナに紹介されちゃいますよ」
官僚A「そんな軽い言葉じゃないんだよー」
官僚B「WEBはやめましょうよ」
官僚A「じゃぁ、決定的瞬間の前で止めて、『無料です』っていれる?」
官僚B「モバゲーじゃないですか」
官僚A「まずいよー市原隼人がエキサイトするのはまずいよー」
官僚B「国が動いちゃいますよ」
官僚A「動いてるんだけどね」
官僚B「えっ、国は市原隼人をマークしてるんですか?」
官僚A「してないんじゃないかな」
官僚B「してないんですか」
官僚A「じゃマークしとく」
官僚B「わかりました」
官僚A「さてと。じゃぁ、どうしよう。もう見せちゃう?」
官僚B「見せちゃうんですか?」
官僚A「見せちゃおうよ」
官僚B「見せちゃうかぁ」
官僚A「でもあれかな。見せていいって言った奴誰だ!ってなるかな」
官僚B「なりますよ」
官僚A「うっかり見ちゃった感じにする?」
官僚B「たとえば?」
官僚A「うーん、サザエさんの予告と差し替える?」
官僚B「それなら国民はうっかり見ちゃいますね」
官僚A「そうしよっか」
官僚B「そうしましょうか」
官僚A「音声だけ予告のまま『フネです』にしておこうか」
官僚B「まさに日曜夜の領海侵犯ですね」
官僚A「ジャンケンで勝敗が決まれば楽なのにね」
官僚B「そうしたらノーベル平和賞ものですよね」
官僚A「いけそう?」
官僚B「わかりません、各所(かくしょ)、統制(とうせい)してみます」
官僚A「とりあえずその方向でいっちゃいな」
 

恩返しがしたくって

村人「どなたですか?」
女性「夜分にすいません、道に迷ってしまって…今晩こちらに泊めていただけませんか?」
村人「えっ」
女性「もちろん、お礼はいたします」
村人「えっ…」
女性「どうか、お願いできないでしょうか」
村人「…この先にサンクスがあるんで、そこで道を…」
女性「えっ」
村人「マップルも売ってますし…」
女性「いやいや、あの、こちらに泊めていただけませんか」
村人「だって道に迷ってるって…」
女性「あの、もう、夜も遅いですし…できればこちらに…」
村人「そんな突然…」
女性「もちろん!お礼はいたします」
村人「あ!」
女性「お願いできますか?」
村人「田舎に泊まろう?」
女性「違います!」
村人「アハハ、そうですよね。この前最終回でしたもんね」
女性「知りませんけど」
村人「いや、でも、改編期だから特番ですか…?」
女性「違うんです!」
村人「晩ご飯なら食べちゃいましたし…」
女性「となりの晩ご飯でもないです!」
村人「そんなにうちに泊まりたいんですか」
女性「はい…」
村人「テレビじゃないのに」
女性「テレビじゃないのに」
村人「…でも…散らかってますし…」
女性「全然大丈夫です。むしろ、羽で散らかるし…」
村人「えっ」
女性「いや、なんでもないです」
村人「どうしてもうちですか…?」
女性「えぇ、だから、お礼はしますから!」
村人「えっ…まさか…」
女性「…そういう…お礼じゃないですけど…」
村人「…」
女性「…」
村人「そういうお礼ってどういうお礼ですか」
女性「言わせんな!」
村人「とにかく困りますんで」
女性「仕方ありませんね…。あなた、昨日山で罠にかかった鶴を助けませんでしたか?」
村人「あぁ…助けました。村の狩人の罠だから本当はそんなことしてはいけないんだが、真っ白な体に真っ赤な血がついてるのが不憫でね。つい、罠を外してしまった。鶴のやつ、こっちを名残惜しそうに見ながら、空に飛んでったよ」
女性「その鶴が…私でございます」
村人「あんた…!」
女性「…」
村人「…」
女性「…」
村人「そんなわけないでしょー」
女性「そうなの!」
村人「鶴は人にはなれないでしょー」
女性「でもそうなの!」
村人「じゃぁ、いま鶴に戻ってみせてよ」
女性「それはできるけど…今後の話の展開がおかしなことに…覗いてはいけません的なことが…」
村人「何ぶつぶつ言ってるの」
女性「とにかく、恩返しがしたいんです!泊めていただけませんか」
村人「恩返ししたいのに夜中に突然他人の家にアポなしで来て泊まろうとするの?」
女性「…すいません…」
村人「しかも手ぶらで」
女性「これから着物ができるんですけど…」
村人「本来なら自宅に招くのが筋じゃないの?」
女性「自宅は巣なので…」
村人「村に変な噂がたっても困るんで。いい加減お引き取り願えませんか」
女子「ねぇ、おじさん、どうしたの?」
村人「おぉ、なんでもないよ。早く部屋にお戻り。決して覗かないからね」
女性「いまの女の子は…」
村人「いや、昨日の夜、道に迷ったって言ってうちに来てね。泊めてやってるんです」
女性「えっ…」
村人「子供を追い返すわけにはねぇ」
女性「ひょっとして、助けた鶴というのは…」
村人「あー、そういえば、さっき話した鶴の前に、もう一匹子供の鶴を助けましたよ。本当はいけないんだけどねぇ」
 
 

独裁には独裁の論理がある 石持浅海『この国』

一党独裁の管理国家を舞台に起こる事件をテーマにした、5編からなる短編集。

日本のようで日本でないパラレルワールド的世界観としては、石持作品では『BG、あるいは死せるカイニス』や『人柱はミイラと出会う』がある。本作はその異世界日本の構築+『攪乱者』でみせた政府vsテロの路線の位置付け。

テロ組織幹部の公開処刑の場で繰り広げられる治安警察と反政府組織の頭脳戦「ハンギング・ゲーム」や、小学校卒業と共に進路が決定する制度から派生した卒業生自殺の謎「ドロッビング・ゲーム」は、異世界という箱庭ならではの思考・論理が展開されとてもスリリング。

「この前提ならこう考える」という話運びは相変わらずの上手さ。ちょっとおかしな外枠を作りあげると、石持浅海は生き生きするなぁ。

ただ、続く3編も自衛隊、外国人労働者、表現の自由を取り扱っているものの、異世界の補強と物語の収束に力が向けられた印象。必要な手続きであることは承知の上で、でももっと箱庭で遊びたかったなぁ、というのが正直な感想です。

プロ棋士の設定

仕事で「プロキシの設定」と打とうとしたら、「プロ棋士の設定」と変換された。

プロ棋士にもいろいろなタイプがある。やはりいろいろな設定があるのだろうか。
 
 
・タイムアウト : 60秒

・あきらめ ○早い ●普通 ○しぶどい

・悩んでる時の顔 ○涼しげ ●普通 ○鬼の形相

・悔しがり方 ○なし ●普通 ○頭を抱えて部屋中を転げ回る

・□ 手加減する

・□ 日没時に自動的に投了する

・「デフォルトに戻す」

・「履歴の削除」 
 
 
履歴を消すと「あれ、僕負けてましたっけ?」ってなるので絶対に押してはいけない。絶対に。絶対にだぞ。
 
 

さよならをもう五回  伊坂幸太郎『バイバイ、ブラックバード』

主人公・星野一彦はお金の問題もろもろで<あのバス>に乗せられて遠くへ行くことになってしまった。

<あのバス>の行き先については詳細はわからない。監視役の巨体の大女・繭美(イメージはマツコ・デラックス)に聞いても恐ろしい例え話をするばかり。ずけずけと人を傷つける言動を繰返す繭美に、星野一彦はあるお願いをする。恋人に最後の別れを告げたいと。

しかし、星野一彦は五股をかけていたのだった…。
 
 
というあらすじからなる5編+1編の短編集。「繭美と結婚することになった」という嘘を引っさげて、一人一人に別れを告げに行くのだ。

借金+五股だけど星野は悪人というわけではなく、いい人なんだけど色々自覚がなくてこうなっちゃった、という感じ。なので、別れ際にもなんか女性の役に立ちたいと考えてしまう。車を当て逃げされたと聞けば、犯人を探し出したいと繭美に頼んでブーブー言われ、それでも繭美の協力を得て、なんやかんやでカーチェイスをする羽目になってしまう。

星野が一人の女性と関係を断ち切るまでを1編としてるのだけど、別れ話の後に起こる事件や出来事をスマートに回収する様はさすが伊坂幸太郎。繭美のキャラ立ちと、お話の小粋さのコントラストが面白いです。

星野のいい人さと、繭美の無軌道さ、様々なタイプの女性たちと、そこに偶然と伏線を織り混ぜて、恋愛でもミステリーでもない、あまり見たことのない連作短編に仕上がっています。最後の書き下ろしの1編もまた、いいんだよなぁ。