恩返しがしたくって

村人「どなたですか?」
女性「夜分にすいません、道に迷ってしまって…今晩こちらに泊めていただけませんか?」
村人「えっ」
女性「もちろん、お礼はいたします」
村人「えっ…」
女性「どうか、お願いできないでしょうか」
村人「…この先にサンクスがあるんで、そこで道を…」
女性「えっ」
村人「マップルも売ってますし…」
女性「いやいや、あの、こちらに泊めていただけませんか」
村人「だって道に迷ってるって…」
女性「あの、もう、夜も遅いですし…できればこちらに…」
村人「そんな突然…」
女性「もちろん!お礼はいたします」
村人「あ!」
女性「お願いできますか?」
村人「田舎に泊まろう?」
女性「違います!」
村人「アハハ、そうですよね。この前最終回でしたもんね」
女性「知りませんけど」
村人「いや、でも、改編期だから特番ですか…?」
女性「違うんです!」
村人「晩ご飯なら食べちゃいましたし…」
女性「となりの晩ご飯でもないです!」
村人「そんなにうちに泊まりたいんですか」
女性「はい…」
村人「テレビじゃないのに」
女性「テレビじゃないのに」
村人「…でも…散らかってますし…」
女性「全然大丈夫です。むしろ、羽で散らかるし…」
村人「えっ」
女性「いや、なんでもないです」
村人「どうしてもうちですか…?」
女性「えぇ、だから、お礼はしますから!」
村人「えっ…まさか…」
女性「…そういう…お礼じゃないですけど…」
村人「…」
女性「…」
村人「そういうお礼ってどういうお礼ですか」
女性「言わせんな!」
村人「とにかく困りますんで」
女性「仕方ありませんね…。あなた、昨日山で罠にかかった鶴を助けませんでしたか?」
村人「あぁ…助けました。村の狩人の罠だから本当はそんなことしてはいけないんだが、真っ白な体に真っ赤な血がついてるのが不憫でね。つい、罠を外してしまった。鶴のやつ、こっちを名残惜しそうに見ながら、空に飛んでったよ」
女性「その鶴が…私でございます」
村人「あんた…!」
女性「…」
村人「…」
女性「…」
村人「そんなわけないでしょー」
女性「そうなの!」
村人「鶴は人にはなれないでしょー」
女性「でもそうなの!」
村人「じゃぁ、いま鶴に戻ってみせてよ」
女性「それはできるけど…今後の話の展開がおかしなことに…覗いてはいけません的なことが…」
村人「何ぶつぶつ言ってるの」
女性「とにかく、恩返しがしたいんです!泊めていただけませんか」
村人「恩返ししたいのに夜中に突然他人の家にアポなしで来て泊まろうとするの?」
女性「…すいません…」
村人「しかも手ぶらで」
女性「これから着物ができるんですけど…」
村人「本来なら自宅に招くのが筋じゃないの?」
女性「自宅は巣なので…」
村人「村に変な噂がたっても困るんで。いい加減お引き取り願えませんか」
女子「ねぇ、おじさん、どうしたの?」
村人「おぉ、なんでもないよ。早く部屋にお戻り。決して覗かないからね」
女性「いまの女の子は…」
村人「いや、昨日の夜、道に迷ったって言ってうちに来てね。泊めてやってるんです」
女性「えっ…」
村人「子供を追い返すわけにはねぇ」
女性「ひょっとして、助けた鶴というのは…」
村人「あー、そういえば、さっき話した鶴の前に、もう一匹子供の鶴を助けましたよ。本当はいけないんだけどねぇ」
 
 

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