独裁には独裁の論理がある 石持浅海『この国』

一党独裁の管理国家を舞台に起こる事件をテーマにした、5編からなる短編集。

日本のようで日本でないパラレルワールド的世界観としては、石持作品では『BG、あるいは死せるカイニス』や『人柱はミイラと出会う』がある。本作はその異世界日本の構築+『攪乱者』でみせた政府vsテロの路線の位置付け。

テロ組織幹部の公開処刑の場で繰り広げられる治安警察と反政府組織の頭脳戦「ハンギング・ゲーム」や、小学校卒業と共に進路が決定する制度から派生した卒業生自殺の謎「ドロッビング・ゲーム」は、異世界という箱庭ならではの思考・論理が展開されとてもスリリング。

「この前提ならこう考える」という話運びは相変わらずの上手さ。ちょっとおかしな外枠を作りあげると、石持浅海は生き生きするなぁ。

ただ、続く3編も自衛隊、外国人労働者、表現の自由を取り扱っているものの、異世界の補強と物語の収束に力が向けられた印象。必要な手続きであることは承知の上で、でももっと箱庭で遊びたかったなぁ、というのが正直な感想です。