さよならをもう五回  伊坂幸太郎『バイバイ、ブラックバード』

主人公・星野一彦はお金の問題もろもろで<あのバス>に乗せられて遠くへ行くことになってしまった。

<あのバス>の行き先については詳細はわからない。監視役の巨体の大女・繭美(イメージはマツコ・デラックス)に聞いても恐ろしい例え話をするばかり。ずけずけと人を傷つける言動を繰返す繭美に、星野一彦はあるお願いをする。恋人に最後の別れを告げたいと。

しかし、星野一彦は五股をかけていたのだった…。
 
 
というあらすじからなる5編+1編の短編集。「繭美と結婚することになった」という嘘を引っさげて、一人一人に別れを告げに行くのだ。

借金+五股だけど星野は悪人というわけではなく、いい人なんだけど色々自覚がなくてこうなっちゃった、という感じ。なので、別れ際にもなんか女性の役に立ちたいと考えてしまう。車を当て逃げされたと聞けば、犯人を探し出したいと繭美に頼んでブーブー言われ、それでも繭美の協力を得て、なんやかんやでカーチェイスをする羽目になってしまう。

星野が一人の女性と関係を断ち切るまでを1編としてるのだけど、別れ話の後に起こる事件や出来事をスマートに回収する様はさすが伊坂幸太郎。繭美のキャラ立ちと、お話の小粋さのコントラストが面白いです。

星野のいい人さと、繭美の無軌道さ、様々なタイプの女性たちと、そこに偶然と伏線を織り混ぜて、恋愛でもミステリーでもない、あまり見たことのない連作短編に仕上がっています。最後の書き下ろしの1編もまた、いいんだよなぁ。