我が家のブブゼラ

この前、朝ヒゲを剃っていて気がついたことがある。

ブブゼラの音がする。

初のアフリカ大陸での開催となった、ワールドカップ南アフリカ大会。試合の最中に応援席から鳴らされる南アフリカの民族楽器、ブブゼラ。試合中、ずーっと「ブーーーーーーン」と鳴り続け、ハエのようだと表現され、テレビの故障かと思わされ、あの周波数をカットできないのかと見るものを悩ませる、ブブゼラ。じゃぁ日本代表は対抗して法螺貝を鳴らせば!とまで言われている、ブブゼラ。

そのブブゼラと同じ音が我が家の洗面台で!

うちのヒゲ剃りにそんなポテンシャルがあったとは。というか、あれ、ヒゲ剃りでいいのか。ずっと吹いてると疲れるだろうから、そんな時はヒゲを剃ってればいいんじゃないか。ブーンって。

後半ロスタイム4分ぐらいの時には南アフリカの人たちはお肌ツルツルなんじゃないだろうか。

絶対にまけられない肌がそこにはある。

全員悪人

北野武最新作『アウトレイジ』が公開されている。

出てくる人がみんな悪人ということで、キャッチコピーに「全員悪人」とついている。他にも全員がうんぬん、みたいなのがいろいろあるから、みんなそうしちゃえばいいと思う。

全員悪人:アウトレイジ
全員怪人:X-MEN
全員役人:官僚たちの夏
全員海人:釣りバカ日誌
全員老人:高齢化社会
全員巨人:東京ドーム一塁側ベンチ
全員狩人:あずさ2号
全員素人:AV
全員防人:海は死にますか 山は死にますか
全員他人:東京
全員舎人:荒川区
全員集合:ドリフ

8時だよ!

動機と叙述の華麗なる融合 梓崎優『叫びと祈り』

もう身も蓋もなく言っちゃいますけどね、超オススメですよ!

砂漠を行くキャラバンを襲った連続殺人、スペインの風車の丘で繰り広げられる推理合戦、ロシアの修道院で勃発した列聖を巡る悲劇…ひとりの青年が世界各国で遭遇する、数々の異様な謎。選考委員を驚嘆させた第五回ミステリーズ!新人賞受賞作「砂漠を走る船の道」を巻頭に据え、美しいラストまで一瀉千里に突き進む驚異の連作推理誕生。大型新人の鮮烈なデビュー作。

5編からなる連作短編。世界を飛び回るジャーナリストの斉木という男が主人公かつ探偵役なので、5編とも舞台となる国が異なるというのがまず面白い趣向。砂漠で、修道院で、アマゾンの密林で、様々な事件に巻き込まれる。

とにかく動機の謎をめぐる「ホワイダニット(Why done it?)」が素晴らしい。例えば1作目「砂漠を走る船の道」では砂漠を横断するキャラバンで連続殺人が起きる。でも、このキャラバン、斉木を含めて5人しかいない。そんなところで殺人を犯してもバレちゃうリスクは大きいし、なにより遭難の危険性が高まってしまう。それでもこの殺人にはちゃんとした意味、動機が存在する。彼らの中でしか成立しない形で。

動機の謎、というのはけっこう「イヤイヤイヤそうかもしれんけど他になんかあるんじゃないの」となりがちな難しさがあるのだけど、舞台を海外にして、母体を部族や宗教者などの「意思のある集団」にすることで、「普通じゃない動機」が輝きを増す。これまた、風景や登場人物の意思などの書き込みがすごく丁寧なので、異国の雰囲気にどっぷり浸ってしまうのもスパイスとして作用する。この人ホントに新人なのか。しかも20代て!

もう一つ、この人、叙述トリックもすごい上手い。雰囲気たっぷりの風景描写に、人物たちの何気ない会話に、罠を静かに滑り込ませてくる。ネタバレになるので詳しく書けないけど、「ホワイダニット」と「叙述トリック」が類を見ない融合をしている。しかも、何発も。

そして最終章の書下ろし「祈り」でこれまでの話をまとめ上げる、というワザまで見せつけられるわけで、もうこれがオススメせずにいられるかという出来。今年のランキングに上位入り必至。梓崎優、その名を覚えておいて絶対損はない。梓崎優(しざきゆう)ですよ。大事なことなので二回言いましたよ。

志村、後ろ後ろ! 奥泉光・いとうせいこう『世界文学は面白い。 文芸漫談で地球一周』

奥泉光といとうせいこうが北沢タウンホールで定期的に行っている『文芸漫談』の書籍化第二シリーズ。1回に一冊「薄いブンガクの本」を題材に二人がセンターマイクを挟んで語るという形式(イベントではその後奥泉光のフルートといとうせいこうの朗読があるらしい)

前作『文芸漫談』ほど枕は長くなく、途中の脱線も少ない(あと漫談に茶々ばかり入れていた脚注がなくなったのは個人的にうれしい)。カフカ『変身』や夏目漱石『坊ちゃん」、ポー『モルグ街の殺人』など、冒頭からラストにいたるまで粗筋を引用しながら、不条理な展開を笑い、小説技法に唸り、作家の心中を推し量る。未読の人には興味をひくプレゼンテーションになり、既読の人には再確認ができる。

これが「漫談」という形式で成立するのはすごいなぁ。難しいことを人に分かりやすく説明する、というのは頭がよくないとできない。ちなみにタイトルにある「志村、後ろ後ろ!」は主人公の危機に読者は気がついているもののどうしようもできないという、”物語の客観性”を表している比喩。こんな感じで、難しくなりがちな文芸評論が二人の「読み」から「トーク」への昇華によって手に届きやすくなっている。

今回取り上げられてる9冊はどれも薄くてさっと読める本。同じく世界文学を独自の視点とツッコミで解説する伊藤聡『生きる技術は名作に学べ』と比べてみるのも面白いかも。
 

「その、まさかだよ」

「その、まさかだよ」って言ってみたい。

個人的に言ってみたい台詞上位に入る「その、まさかだよ」驚きで声を失う相手、そこにかぶせて自分は最初から知っていたのだよと優越感をもって繰り出される「その、まさかだよ」、たまに悪役が使うけど、ちょっと言ってみたい。

しかしなかなか言う場面がない。理由は色々あるけれど、特に厳しい条件が相手が「まさか…」と言わないといけないところだと思う。驚いたとしても「まさか」と言ってもらわないと「そのまさか」が使えない。

どうしたらいいだろう。

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「あのさ、金太郎の歌の出だしってなんだっけ?」
「は?えーっと、♪まーさかり…」
「その、まさかだよ!」

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「あのさ、中森明菜『DESIRE』のサビってどんなんだっけ?」
「は?えーっと、♪まっさかさーま」
「その、まさかだよ!」

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「問題。松平健の名字と名前の最初の一字を入れ替えると?」
「けつだいら まん!」
「では草刈正雄では?」
「まさかり…」
「その、まさかだよ!」

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全部だめだ。そういうことじゃない。そのまさかじゃない。まさかりじゃない。