動機と叙述の華麗なる融合 梓崎優『叫びと祈り』

もう身も蓋もなく言っちゃいますけどね、超オススメですよ!

砂漠を行くキャラバンを襲った連続殺人、スペインの風車の丘で繰り広げられる推理合戦、ロシアの修道院で勃発した列聖を巡る悲劇…ひとりの青年が世界各国で遭遇する、数々の異様な謎。選考委員を驚嘆させた第五回ミステリーズ!新人賞受賞作「砂漠を走る船の道」を巻頭に据え、美しいラストまで一瀉千里に突き進む驚異の連作推理誕生。大型新人の鮮烈なデビュー作。

5編からなる連作短編。世界を飛び回るジャーナリストの斉木という男が主人公かつ探偵役なので、5編とも舞台となる国が異なるというのがまず面白い趣向。砂漠で、修道院で、アマゾンの密林で、様々な事件に巻き込まれる。

とにかく動機の謎をめぐる「ホワイダニット(Why done it?)」が素晴らしい。例えば1作目「砂漠を走る船の道」では砂漠を横断するキャラバンで連続殺人が起きる。でも、このキャラバン、斉木を含めて5人しかいない。そんなところで殺人を犯してもバレちゃうリスクは大きいし、なにより遭難の危険性が高まってしまう。それでもこの殺人にはちゃんとした意味、動機が存在する。彼らの中でしか成立しない形で。

動機の謎、というのはけっこう「イヤイヤイヤそうかもしれんけど他になんかあるんじゃないの」となりがちな難しさがあるのだけど、舞台を海外にして、母体を部族や宗教者などの「意思のある集団」にすることで、「普通じゃない動機」が輝きを増す。これまた、風景や登場人物の意思などの書き込みがすごく丁寧なので、異国の雰囲気にどっぷり浸ってしまうのもスパイスとして作用する。この人ホントに新人なのか。しかも20代て!

もう一つ、この人、叙述トリックもすごい上手い。雰囲気たっぷりの風景描写に、人物たちの何気ない会話に、罠を静かに滑り込ませてくる。ネタバレになるので詳しく書けないけど、「ホワイダニット」と「叙述トリック」が類を見ない融合をしている。しかも、何発も。

そして最終章の書下ろし「祈り」でこれまでの話をまとめ上げる、というワザまで見せつけられるわけで、もうこれがオススメせずにいられるかという出来。今年のランキングに上位入り必至。梓崎優、その名を覚えておいて絶対損はない。梓崎優(しざきゆう)ですよ。大事なことなので二回言いましたよ。

2件のコメント

  1. というわけで感想かきました。超オススメ本! http://bit.ly/camDtg RT @inomsk: 梓崎優『叫びと祈り』読了。これすごいよ!ホワイダニットと叙述の仕掛けの融合が素晴らしい連作短編。謎も物語も美しいなぁ。これで新人でしかも20代てありえへん。

  2. 早速買います! RT @inomsk というわけで感想かきました。超オススメ本! http://bit.ly/camDtg RT @inomsk: 梓崎優『叫びと祈り』読了。これすごいよ!ホワイダニットと叙述の仕掛けの融合が素晴らしい連作短編。謎も物語も美しいなぁ。

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