さようなら、「世界」 高橋源一郎『「悪」と戦う』

とても、粗筋を書くのが難しい。

少年(三歳児!)が「世界」を救うために「悪」と戦う、というようにアウトラインを書き出すと、とてもステレオタイプに見える。でも、そうじゃない。詳しく書こうと思えば書き出せると思うけど、なんだかそれは、僕の手でこの物語を縮小させてしまう気がしてしまう。

とても、感じたことを書くのが難しい。

読後感は決して、マイナス、ではない。でも、深い感動や、涙や、感嘆や、驚愕や、その他大きく感情の針が動きだすわけでなく、なんかぼんやりと反芻している。これはなんなのだろう。心に場面が浮かんでは、降り始めの雪のようにじんわり消えていく。

僕は高橋源一郎の熱心な読者ではなくて、何年も前に『さようなら、ギャングたち』を一度読んだきり。記憶はおぼろげ。だから他の高橋源一郎作品と比べてどう、という言葉は持ち合わせていない。

ただ、一つ、言えるとしたら、子供を持つ親になっているいま、言えるとしたら、この本はずっと僕の本棚に置いてあることになると思う。

繰り返し取り出しては、ランちゃん、キイちゃんに会うことになるだろうと思う。

長い付き合いになる予感だけ、今はしている。

※参考リンク
高橋源一郎 (inomsk) on Twitter:5/1~13まで、毎日午前0時に高橋源一郎本人が『「悪」と戦う』のメイキングを執筆していました。

奮ってご参加ください。

先日、マンションで避難訓練があった。

自治会が主導となった避難訓練で、火災発生により全住民が近くの運動公園に避難する、という大掛かりなもの。避難後は消防隊員による消化器のデモンストレーションも準備されている。

火災発生は午前10時。

あと15分で火事が起きるな、と思ってた矢先、放送が鳴った。一通り告知と注意事項が説明されたあと、こう締められていた。

「皆様、奮ってご参加ください。」

奮って。

ものは避難訓練である。奮ってご参加とは、いったいどんな態度で望めばいいんだろう。火事な感じをかなり盛り上げないといけないのだろうか。

・「火事だ~~~!」
・半分黒焦げのパジャマで登場。
・裸足。
・気が動転して枕とか大事に持ってる。

15分では用意できず、普通に避難した。

最後にお子様向けに風船が用意されてた。危うく黒焦げパジャマで風船をもらうところだった。無理に奮わなくて本当によかったと思う。

過去から未来へ繋ぐバトン 宮下奈都『スコーレNo.4』

自由奔放な妹・七葉に比べて自分は平凡だと思っている女の子・津川麻子。そんな彼女も、中学、高校、大学、就職を通して4つのスコーレ(学校)と出会い、少女から女性へと変わっていく。そして、彼女が遅まきながらやっと気づいた自分のいちばん大切なものとは…。ひとりの女性が悩み苦しみながらも成長する姿を淡く切なく美しく描きあげた傑作。

骨董品屋の長女・麻子の成長を、全体を4章にわけてそれぞれ中学時代・高校時代・就職直後・就職して3年後、という年代設定にして、連作短編として仕上げている。あの子がこんなに立派になって…という仕組みになっていて、終盤には、おっちゃんは中学の頃からこの子知ってんねんでーとすっかり物語に入ってしまう。

自分は地味で誇るところがないというコンプレックスを抱え、六人家族で暮らす多感な思春期を過ぎ、就職し…という流れで、就職してからがもう白眉。入社後の戸惑、突然の現場への派遣、そこから徐々に人間関係を築いて、仕事も覚え…と、その中で過去に自分に起きた出来事が今の仕事につながって…と、いろんなものがリンクしていく。人生はその場しのぎではなくて、過去の自分が未来の自分を作っていく。

特に”何かに目覚める時”が鮮やかだなぁと感じました。初恋や職場での気づきと言った場面で、パァァと目の前の世界が変わる。自分の中の変化を自分で感じる瞬間が美しい。

たぶん女子向けの本に分類されるんだろうけど、娘をもつ親御さんにもオススメです。もう、主人公をハラハラしながら応援してしまう自分がいます。

この本はTwitterで書店員の方々によって結成された「秘密結社」が、大好きな本として全国の書店(その数約100店舗!)で大プッシュしているもの。ハッシュタグは#Schole。Twitterが生んだフェアでこの本に出会えたことを感謝します。お近くの書店でも平積みされてるかもしれませんよ。

なんかおめでとう

職場で「有志募集!Tさんお祝い」という件名のメールがまわってきた。

Tさんは事務の女性である。一口500円で有志を募り、お祝いの品を送るとのこと。

でも、何のお祝いか書いていない。なんだろう。心当たりがない。

結婚…していたような気もするし、じゃぁおめでた…?いや、女性のお祝い=結婚・おめでたとは限らない。なんか賞でももらったのか?当選したのか?ホールインワンか?実家の畑から石油が?僕はここにいていいんだ!おめでとう!おめでとう!…か?

誰かに聞けばいいかもしれないけど、自分以外既に周知の事実かもしれない。それは恥ずかしい。おめでたと思って本人に「どうりでお腹が大きくなって!」なんて言って「太っただけですが」と冷ややかに返されたら大変だ。どうしよう。

こうなると、このメールを送ってきたのは本当に社員なのだろうか。本当は何にもめでたいことはないのに、一口500円を集めてドロンという算段じゃないだろうか。

タイトルの「有志募集!」も本当は「融資募集!」なんじゃないだろうか。

でもとりあえずTさんなんかおめでとう。

ラブソングが鳴り止まなくて

ここ2,3日特に面白いことが浮かばない。

サンボマスターの新譜『きみのためにつよくなりたい』をずっと聞いている。1曲目の「ラブソング」という曲がもう素晴らしくて、そこからずっとひきこまれて聞いてしまう。ピアノの前奏、壮大なストリングスをバックに切々と歌い上げるバラード。

この曲に惚れ込んだクリエイター・箭内道彦が頼まれてもないのに自主制作でPVを作ってしまったほどである(本家のPVはちゃんとあるのに!)しかもその主演が長澤まさみで、3パターンも作っているのだ。一番好きなバージョンのPVをはって、今日はこれでおしまいです。

最後、空のカットで終わるところなんて、もう、ね。