2ボタンラジコンの思い出

子供のころ、ラジコンがブームになったときがあった。まだミニ4駆が登場する何年も前。

近所の子供たちが親に買ってもらったラジコンで、レースをしたりして遊んでいた。持っていない自分はその様子を眺めるしかなかった。欲しい。欲しいので親にねだった。が、なかなか買ってもらえなかった。

ある日、スーパーに買い物に行った時のこと、売り場の一角にラジコンが売っていた。ワゴンにつまれていた箱。赤いボディの車。黒光りするリモコン。「これでいい?」「うん!」即答だったと思う。

わくわくと家に帰り、箱を開けてみて、なんかおかしなことに気が付いた。

リモコンにボタンが2個あるだけなのだ。

他の子の持ってるラジコンは、リモコンに2個のツマミがあって、上下に動くツマミが前進・後退、左右に動くツマミが右折・左折の操作になっていたはず。なぜボタン?そして2個?

その謎は翌日、我が家の前で執り行われた壮行式にて判明する。

2個のボタンを仮にAボタン・Bボタンと呼ぶと、Aボタンはアクセルだった。前に押すと進んだ。なんとなくそう思ってたのでこれには納得できた。

もう1個、Bボタンを押した時、赤いボディに異変が起きた。

バックしたのだ。しかも右に。

車庫入れみたいにバックした。そしてBボタンを押し続けると、バックの状態で反時計回りにグルグルと回り続ける。

これには驚いた。でも、子供心にちょっと嬉しかった。他のみんなのラジコンにはない動き!斬新!みんなに見せびらかそう!

しかしその興奮も、いざ友達とレースをしようとなった時に一気にしぼんでしまった。カーブでどうしても負ける。

単純に時計回りに1週するコースでも、コーナーに来ると、Bボタンオン!→後ろ向きにグルグル回って方向を合わせる→Aボタンオン!という大変面倒くさいことになった。大差で負けた。まったく別の乗り物だった。

もうレースは諦めて、グルッと後ろに回って前進、グルッと後ろに回って前進を繰り返して遊んだ。アスリート達の横で踊る曲芸師のようだった。それで十分楽しかった。

思えば、今でも世の中をまっすぐ見ずに面白い方向に見て楽しむのも、こういう経験から来ているのかもしれない。たまには変な方向にバックしてみるのもいいもんだ、とぼんやり考える。

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