非日常の陽だまり 三崎亜記『鼓笛隊の襲来』

戦後最大規模の鼓笛隊が襲い来る夜を、義母とすごすことになった園子の一家。避難もせず、防音スタジオも持たないが、果たして無事にのりきることができるのか―(「鼓笛隊の襲来」)。眩いほどに不安定で鮮やかな世界をみせつける、三崎マジック全9編。『となり町戦争』の著者、1年4ヶ月ぶり待望の新刊。

日常の中の非日常を描く小説というのは多けれど、この作品の特徴はその「非日常」が作中で既に受け入れられている状態から始まっていることにある。

なんて書いてみたけど、もう、各編、最初の出だしの設定がおかしくてしょうがないのだ。台風と鼓笛隊がすりかわっている表題作をはじめ、覆面を被って会社に来ることが合法化された「覆面社員」、校庭の真ん中に一軒家が建っている「校庭」、背中にボタンがある女性との恋愛「突起型選択装置[ボタン]」、本物の象がすべり台として公園に勾留される(しかも象がしゃべる!)「象さんすべり台のある公園」などなど、もうコントすれすれ。体にボタンがついているオッサンだったら、バカリズムのコントにあるしなぁ。

しかし『廃墟建築士』の感想にも書いたけど、コントでは決して終わらない。「覆面社員」では覆面の自分と本当の自分との葛藤を、「象さんすべり台のある公園」では郷愁と象の悲しみを、「鼓笛隊の襲来」では伝統と家族の絆を、その世界に浸った状態でじんわりと描き出す。

(こちらからすれば)不条理な世界で、その世界になじんだ人々のさらにその先の心のゆらぎを想像する。先へ先へと拡がる空想に、目を離さずにはいられない。