米澤穂信『儚い羊たちの祝宴』

ミステリの醍醐味と言えば、終盤のどんでん返し。中でも、「最後の一撃」と呼ばれる、ラストで鮮やかに真相を引っ繰り返す技は、短編の華であり至芸でもある。本書は、更にその上をいく、「ラスト一行の衝撃」に徹底的にこだわった連作集。古今東西、短編集は数あれど、収録作すべてがラスト一行で落ちるミステリは本書だけ。

と、いう煽りで紹介されてはおりますが、本書はどちらかというとサスペンス・ホラーの領域なので、ラスト一行で世界が反転するというよりはゾッとする、という感じ。5編収録された短編集で、特筆すべきはラスト一行のことよりも、「使用人(女子)がメインキャラクターとなる短編ばかりの短編集」であることだと思う。

お嬢様に従順な付き人、暇でたまらない山荘の管理人、高飛車すぎる料理人など、1編ごとに異なる名家の異なる使用人が、話のカギを握る存在となる。主人に忠実な存在であり、命令には実直に従うが、何を考えているかわからない存在として書かれる彼女たち。彼女たちが犯す「奇行」には彼女たちなりの理屈があり、それがいわゆる「狂人の論理」として機能し、最後の一行に向かって収束する。5編それぞれ主観人物や構成も異なり、よく練られてるなぁ。

それにしてもかなりダークな手触り。おっかないですわ。もう。アミルスタン羊とかさぁ。