森見登美彦『きつねのはなし』

京の骨董店を舞台に現代の「百物語」の幕が開く。注目の俊英が放つ驚愕の新作。細長く薄気味悪い座敷に棲む狐面の男。闇と夜の狭間のような仄暗い空間で囁かれた奇妙な取引。私が差し出したものは、そして失ったものは、あれは何だったのか。さらに次々起こる怪異の結末は―。端整な筆致で紡がれ、妖しくも美しい幻燈に彩られた奇譚集。全4篇。

森見・イン・ザ・ダークネス。『夜は短し歩けよ乙女』などで見せる、真面目な顔でおどける仕草はなりを潜め、真顔でひたひたと綴られる怪異の連続。あの想像力が怖い方向に向かうとこんな形になるのか、とゾーっとしつつ読んでいました。

気配というか、直接見えないけど何かある…という描写が特に印象的で、それは狐の面をかぶって立っている男であったり、先の見えない取引であったり、遠くで聞こえる水音であったり、現れては消える”胴の長いケモノ”であったりする。特に”胴の長いケモノ”は全篇通して裏にいる存在で、これがタイトルの『きつねのはなし』にも返ってくるのだけど、とにかくケモノを見た者をおかしな方向に導いていくのだ。すべて理詰めで解決しないのも余韻が残り、不思議な読後感につながる。

他の作品ではあんなに明るかった京都が、何を考えてるかわからない暗い街となって読者を待ち受ける。梅雨明けの夏空と対照的な一冊。

2件のコメント

  1. 更新したよ:森見登美彦『きつねのはなし』http://bit.ly/kBFyw

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