横山秀夫『震度0』

閉ざされた空間での心理戦。たどる結末は、震度ゼロの衝撃。

阪神大震災のさなか、700km離れたN県警本部の警務課長の不破義人が失踪した。県警の事情に精通し、人望も厚い不破がなぜ姿を消したのか? 本部長の椎野勝巳をはじめ、椎野と敵対するキャリア組の冬木警務部長、準キャリアの堀川警備部長、叩き上げの藤巻刑事部長など、県警幹部の利害と思惑が錯綜する。ホステス殺し、交通違反のもみ消し、四年前の選挙違反事件なども絡まり、解決の糸口がなかなか掴めない……。

6人の警察幹部の視点をザッピングしながら、警務課長をめぐる心理戦が展開される。有力情報を秘密にしたり、命令にこっそりそむいたり、実は全然違うこと考えてたりと、視点をグルグル変えることで6人の権力争いが立体的に見えてくる。

舞台は警察署内部と官舎しかなく、演劇っぽい感じでもある。読者は外部から箱庭の中の大騒ぎを眺めてる状況で、かつ次々と新しい情報が来るものだからずっと目が離せない。うまいなぁ。官舎ではそれぞれの幹部の奥さんも登場して、奥さん同士の心理戦もあるのだ(警察幹部よりドロドロしてる!)

もう一つのポイントとして、この事件は阪神大震災の日に起こったという設定になっている。テレビで震災の激しさを見ながらも、目の前の権力争いにやっきになる幹部達。その対比に、箱庭の戯れの感が増す。

あんなにいろいろグルグルやったのに、十分衝撃な結末も用意されて、大満足の一冊。WOWOWで映像化もされていて、原作よりよかったという声も。これも観たいなぁ。