新野剛志「あぽやん」

空港のトラブルシューター、喜怒哀楽の果ての勧善懲悪。面白いなぁー。直木賞候補作。

空港に常勤する旅行代理店のスーパーバイザー、空港のカウンターの裏で様々なトラブルを解決する彼らはの愛称は「あぽやん」。頼れるトラブルシューターの彼らではあるが、空港勤務の「閑職」のため最近は会社の出世コースから外れた「島流し」のイメージがついてしまっている。
上司の不評を買って成田空港勤務に飛ばされた主人公、遠藤慶太。すっかりやる気をなくした男が、上司や女性スタッフに助けられ、なんとしてもお客様を笑顔で出発させるために奔走、プロとしての仕事に目覚めていく。

短編6本からなる短編集。もう、起きるトラブルがどれも大変なのである。再入国許可がないため出発したら帰国できないブラジル人少女、パスポートを忘れたために家族旅行から一人空港に残される少年、新婚旅行のはずが航空機の予約が消えてる新婚夫婦…。どないせぇっちゅうねん、と言わんばかりのトラブルは、飛行機の出発時間がタイムリミットとなるため、嫌がおうにも緊張感が増す展開。知恵と偶然と人脈で事態が切り開かれるまで、目が離せないのだ。

また、本社vs空港という図式もある。無理難題(ヤクザの出迎えとか)を押し付けようとする本社との戦いは、さながら「事件は会議室で~」の空港版。空港スタッフ達の結束が爽快感を生む。

女性スタッフとの恋愛、老人・子供といった泣かせどころもあり、いかにもテレビドラマになりそうな「わかりやすい」要素を備えながら、登場人物の配置やトラブルの見せ場の上手さでぐいぐい引っ張られる。空港に行きたくなる、そんな気持ちになった段階で、もう作者の勝ち。オススメ。
 

11通目

観てないのですが、映画「P.S.アイラヴユー」では、死んでしまった夫から”消印のないラブレター”が10通届くという。「僕の服を捨てて」とか「すてきな灯りを買って」とか。すわ、死者からの手紙か、と思ったら、夫は病で死ぬ前にいろいろ策を練って、妻にメッセージが届くようにしたらしい。

しかし、そううまくいかない事もあると思う。たとえば配達されなかった11通目があったとしたらどんなのだろう。

・戸棚にドーナツが入ってるから食べて。
・この暗号を解いて。
・6通目に書いたこと忘れて。
・やっぱ服捨てるのやめて。
・オレオレ、事故っちゃってさ、ヤバイんだよ。この口座に200万振り込んで。

最後のは違う人が書いていると思う。