愛川晶『芝浜謎噺』

オススメ本にしていた前作『道具屋殺人事件』 から1年経たずに続編がきましたよ。これまたオススメ本!

あの「芝浜」を、故郷で病気の母に聞かせてやりたい……。
なんとかしてやりたいと弟弟子のために悩む八ちゃんこと寿笑亭福の助。そこへ起こった「紅梅亭ダイヤ消失事件」。ところがこぼれたカルピスが引き金になって、「芝浜」も「ダイヤ」もすべてに合点!
笑いあり、ほろりと泣ける、本格落語ミステリー第二弾!

「野ざらし死体遺棄事件」「芝浜謎噺」「試酒試」の中短篇3編を収録。前作同様、古典落語の改作し演じることで、芸の悩みも市井の事件も全て解決させてしまうという荒業が炸裂。そんなに連発できる技じゃないはずなのに、前作を軽く超えるクオリティにただただ驚く。前作は事件の解決に重心を置いていたけど、今回は芸の道をめぐる人情噺に仕上がっていて、膝を打つわ泣けるわと忙しいのなんの。

例えば、あらすじにあるのは表題作「芝浜謎噺」の話。弟弟子のために”初心者向けの「芝浜」”を作らねばならぬ福の助。しかし「芝浜」には実は話の中にいくつも矛盾点があり(簡単に夢だと勘違いしすぎ、など)名人が演じればその辺は気にならないのだけど、未熟者がそのまま演じるとどうしても不自然になってしまう。しかも師匠筋の関係上、大幅な変更もできない。この袋小路をたった1点の演出を変えることでクリアし、しかもダイヤ消失事件の解決も噺の流れに含めてしまうのだ。すごいですぞー。

(「芝浜」のあらすじについては芝浜 – Wikipediaをどうぞ。っていうかWikipediaに落語の演目の項まであるんだなぁ)

最後の「試酒試」のオチの一文も素晴らしい。読み終わった時に緞帳が下りてくるのが見えるようであった。皆様もどうぞこの一席を聞き逃すことなきよう。
  

ちなみに、本作の刊行記念で開かれた「鈴々舎わか馬 独演会」にて、「野ざらし死体遺棄事件」で改作された「野ざらし」を実際にプロのしゃべりで演じたそうで、その様子を原書房の特設ページ:ちびりん亭で聞くことができます。ユーザIDとパスワードが必要なんですが、これは『芝浜謎噺』のあとがきに載ってるのでみんな買ってねとのこと。ずるい。