石持浅海『君の望む死に方』

『扉は閉ざされたまま』の碓氷優佳リターンズ。開かない扉を前に推理合戦を繰り広げた前作に続き、またしても超絶シチュエーションですよ。

私は君に殺されることにしたよ
しかも殺人犯にはしない──。
死を告知された男が選んだ自らの最期。
周到な計画は、一人の女性の出現によって齟齬(そご)をきたしはじめた
膵臓ガンで余命6ヶ月──
〈生きているうちにしか出来ないことは何か〉
死を告知されたソル電機の創業社長日向貞則(ひなたさだのり)は社員の梶間晴征に、自分を殺させる最期を選んだ。彼には自分を殺す動機がある。
殺人を遂行させた後、殺人犯とさせない形で──。
幹部候補を対象にした、保養所での“お見合い研修”に梶間以下、4人の若手社員を招集。日向の思惑通り、舞台と仕掛けは調(ととの)った。あとは、梶間が動いてくれるのを待つだけだった。

だが、ゲストとして招いた一人の女性の出現が、「計画」に微妙な齟齬(そご)をきたしはじめた……。

殺されたい社長と殺したい社員の一人称が交互に語られる。社員は「殺したい」意思を隠しながら殺す機会を伺い、社長は「殺されたい」意思を隠しながら状況を操作する。その心理戦がスリリングで、残りページはすぐに減っていく。

社長が研修所のあちこちに凶器を仕掛けているのも面白い。玄関には花瓶が、キッチンにはアイスピックが、喫煙室には灰皿が、談話室には重たい社史があり、廊下の壁掛け時計の下にわざと椅子が置いてあったりする。また、外部犯の可能性を残すために治安の悪い地方の研修所を選び、物音が隣室に聞こえないように居室は一つ飛びに参加者に割り当てられている。もう、もはや「罠」というより「誘惑」である。

状況設定だけでも面白いのに、第三者によってこの「誘惑」が一つ一つ壊されていくため、心理戦はさらに加速する。いつのまにか椅子は動かされ、花瓶には花が生けられ、お見合い研修ゆえに女子の思わぬ行動も…。刻々と変わる状況、どう対処すれば殺し-殺されるのか?

はっきりと態度に出さずに、いかに人心を誘導するか。その構成上、都合が良すぎる展開もあるけれど、将棋を打っているような思考の読みあいが面白い。『扉が閉ざされたまま』も犯人側視点で腹の探りあいが楽しめたけど、今回は視点が2人分なのでサスペンスがより持続するのも特筆すべきところ。

被害者と殺人者と探偵役の、無言の三つ巴。このラストは、絶対誰かと語りたくなる。諸手を挙げておすすめ!