太田忠司『奇談蒐集家』

奇怪な呼び水、浴びせる冷や水。

【求む奇談!】新聞の片隅に載った募集広告を目にして、「strawberry hill」を訪れた老若男女が披露する不思議な体験談――鏡の世界に住まう美しい姫君、パリの街角で出会った若き魔術師、邪眼の少年と猫とともに、夜の町を巡る冒険……謎と不思議に満ちた奇談に、蒐集家は無邪気に喜ぶが、傍で耳を傾ける美貌の助手が口を開くや、奇談は一転、種も仕掛けもある事件へと姿を変えてしまう。夜ごと”魔法のお店”で繰り広げられる、安楽椅子探偵奇談。

奇妙な謎をはらんだ不思議な体験で盛り上がるものの、あっさりと助手によって現実に引き戻されてしまう。盛り上がり↑と引き戻し↓の高低差が激しいほど、とても魅力的な安楽椅子探偵ものになりうる本作。ただ、引き戻し↓の内容が膝を打つ、というより、わりと身も蓋もなかったりするので(ただの見間違い、とか)ちょっと食い足りなかったりする。

そんなちょっとモヤモヤを抱えたまま最後の書き下ろし「すべては奇談のために」を読むと評価一変。いわば「後日談」にあたる一編は今までの流れからの視点を変え、立っていたはずの足場を揺らぎさせる。幻想と現実の入れ替え戦。webミステリーズ!の【ここだけのあとがき】にもまさに最後の書き下ろしが作者のやりたかったことらしい。読了した方はぜひこのあとがきも読むことをオススメします。