豚っぽい人

職場に豚っぽい人がいる。

小太りに眼鏡。猫背でノソノソと歩く。昼は席でなんだかムシャムシャと食べている。自分の席の周りに若手を集めてブーブーと文句を言い、豚足のような手でキーボードを叩き、15時半ぐらいに居眠りする。

あまりにも豚っぽいので、あの人は魔法で豚に変えられたんだ、ということにしている。

たぶんどこかの国の王子かなんかで、その国は悪者に乗っ取られ、王子は豚に姿を変えられるも命からがら逃げ出し、ここ日本でシステム開発の仕事に就いているのだと思う。

魔法が解けるとさぞやイケメンなのだろうと思うとなんだか悔しいのでそれは考えないことにしている。
 

鳥飼否宇『官能的――四つの狂気』

数学×生物学 = 変態+バカミス。興奮すればするほど頭が冴え渡る変態数学者と、その数学者の生態を観察する助手が引き起こす3つの事件+アルファ。

変態助教授・増田米尊のフィールドワーク中、ターゲットの女性が公園のトイレで惨殺される。「唯一の」目撃者・増田の話が事実とすれば、彼以外に犯人はいなくなるのだが…?(「夜歩くと…」)
4つの事件に、変態数学者が超絶思考で挑む。

主人公の増田は己の変態さ故に事件に巻き込まれまくりなのですが、この窮地を解決するために行われるのが「周りがよってたかって増田に罵詈雑言を浴びせる」という行為。興奮すると頭が良くなるのでこんなんなってしまうのだ。トミーとマツの「トミ子ー!」みたいなものである。ちがうか。

下ネタを中心としたくすぐりが多くニヤニヤしっぱなしですが、やれパンティだ覗きだストーキングだと書かれた文章に、ページ右上に堂々と「官能的」と大書きされており、とても電車の中で読めない感じで困ったもんですよニンニン。

それでもミステリ部分がしっかり作りこまれており、大小仕掛けあり捨て推理あり。しかしなにぶんベースが変態なので、その上に立つ楼閣たるや、なんとも奇妙な仕上がり。3つの短編を経て最後に待ち受ける「四つの狂気」でその奇妙さも最高潮に。あのあれがあぁだったんかい!とスッキリするやら脱力するやら。

いくつ書いてもますます冴え渡る鳥飼否宇のバカミススキル。今年も健在であります。

ふたりのかずよし

27年たった今、三浦和義容疑者逮捕によりロス疑惑が再び浮上しておりますが、それに伴ってうちのカミさんが思い出した、当時タモリがいいともで話していたネタ。 
 

27年前、まさにロス疑惑真っ只中のころ、テレビのワイドショーはずっとロス疑惑の特集を組んでいた。

そしてそのころ、同じ「かずよし」という名前を持つタモリ(=森田一義)は、テレビで毎日「かずよし」が連呼されることが気が気ではなかった。

ある日、タモリは楽屋で着替えをしていた。楽屋のテレビは相変わらずロス疑惑の話題でもちきり。

テレビを横目に見ながら、タモリがズボンをはこうとしていたその時、テレビの中のコメンテーターが言った。

「かずよしは、はきますかねぇ」

思わず「はくよ!」と、タモリは叫んだらしい。
 

下半身パンツ一枚でキレるタモリ。今回も心中穏やかではないのではないか。中村一義あたりも。

『九マイルは遠すぎる』テーマをまとめてみる

「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、まして雨の中となるとなおさらだ」
ミステリーでたびたび引き合いに出されるハリイ・ケメルマン『九マイルは遠すぎる』。英語にしてたった十一語の文章から、考えられる推論を重ねていき、終いにはとんでもない事件を引き当ててしまう。

まさに安楽椅子探偵の極みであり、推理というか妄想にも近くなるのだけど、このテーマはやはり面白く、数々の作家が挑戦しております。思い出す限りちょいと集めてみました。
  

アンソロジー『競作五十円玉二十枚の謎』
池袋の書店を土曜日ごとに訪れて、五十円玉二十枚を千円札に両替して走り去る中年男

なぜ書店で両替するのか?なぜそんなに五十円玉がたまるのか?なぜ毎週千円に両替するのか?若竹七海が書店でアルバイトをしていた時の実体験が元となり、プロアマ13人が自分なりの解決を考え抜いて短編に仕上げているという、なんとも贅沢&異色な1冊。この時不参加だった北村薫が後に『ニッポン硬貨の謎』を上梓しております。そして法月綸太郎の解決がずるすぎる。
 

西澤保彦『麦酒の家の冒険』
迷い込んだ山荘には一台のベッドと冷蔵庫しかなかった。冷蔵庫を開けてみるとヱビスのロング缶96本と凍ったジョッキ13個が。
著者自らあとがきで「九マイルは遠すぎる」を意識したと書いている本作は、タックシリーズの2作目。タック・タカチ・ボアン先輩・ウサコが冷蔵庫のビールを勝手に飲みながら延々と推理。ベッドしかない山荘に、なんでこんなにたくさんのビールとジョッキがあるのか?状況が突飛すぎるゆえ、仮説もとんでもなくなって、だれることなく面白さ持続。シリーズの中でも好きな作品。
 

米澤穂信『遠まわりする雛』収録 「心当たりのあるものは」
「十月三十一日、駅前の巧文堂で買い物をした心あたりのあるものは、至急、職員室柴崎のところまで来なさい」
つい最近読んだので。きっかけは校内放送、放課後に1回だけ行われた生徒への呼び出しから導き出される犯罪の臭いとは。「古典部」シリーズの折木奉太郎と千反田えるの語りだけで構成される本作は、推理作家協会賞候補にもなっていたりする。
 

都筑道夫『退職刑事』収録 「ジャケット背広スーツ」
ジャケットと背広とスーツを持って駅を走る男
現役刑事の息子がぶつかった事件を、退職刑事の父親が聞くだけで解決してしまう安楽探偵椅子ものの白眉。殺人事件の容疑者が見たというこのジャケット男は、いったい何を意味するのか?割と経緯が複雑だったかで、どういう結末だったか忘れてしまった(笑)読み返すかなぁ。

他にも島田荘司『UFO大通り』(「傘を折る女」)とか、蒼井上鷹『九杯目には早すぎる』とか、まだまだありますな。有栖川有栖あたりにもあったような気がするんだよなぁ。

米澤穂信『遠まわりする雛』

「古典部」シリーズ最新作。古典部のメンバー4人の入学直後から『クドリャフカの順番』で舞台となった文化祭を経て、春休みの出来事までをピンポイントに取り出した短編集。これまでの長編3作の合間にあった「日常の謎」が明らかに。

”省エネ主義”なのに解決役を頼まれて、結果として安楽椅子探偵っぽくなってしまう主人公・折木奉太郎は健在で、校内放送で『九マイルは遠すぎる』をやってしまう「心当たりのあるものは」は推理作家協会賞候補にもなった良作。

しかしやはり白眉は「手作りチョコレート事件」と「遠まわりする雛」。日常の謎を織り交ぜながら、古典部男女4人の人間関係が動き出す。気づかないふりをしていた気持ちが、見過ごせないほど大きくなっていく。あぁ青春やなぁ。

シリーズを通して読んでる人ほど本作の展開は最重要。1年が終わり、そして春が来るのである。